045 蜂雄大爆発
今回のエピソードタイトルはハチオダイバクハツと読みます。特に深い意味はないです。
ドォオオン……という音が足元の方から聞こえてくるのを耳にしたシーリスが眉をひそめた。また大地が揺れることで周囲の竜雲も揺らぎ、それは浮いているタイフーン号の上にいる彼女らも振動として感じられていた。
「何、今の?」
『中で何かあったっすかね?』
「リリたちなら大丈夫だと思うけど」
シーリスとナッツバスターのチルチルがそんな言葉を交わしながら、ジェットの護りの中で魔導長銃で撃ち続ける。ふたりの配置はアンカース天領内に入った時から変わっておらず、タイフーン号の上で自由に動ける砲台としての役割を担って戦っていた。
(リリはともかく、ルッタは心配だねぇ。あの子、無茶するから)
戦闘そのものに対してルッタへの不安はない。けれどもルッタは無茶をする。その度に倒れている。タイフーン号に乗った時に比べれば落ち着いてきたし、ウィークポイントである体力面も改善はされてきている。ジアード天領での反省からか、最近は協力して戦うことにも積極的だ。
とはいえ、人の本質は早々変わったりはしない。いざという時が来れば自分を顧みずに動く子だとシーリスは理解していた。
(もっとも人のことを気にしてる余裕なんてないけどね。危ういのはむしろこちらの方だもの)
そう考えながらもシーリスの体は十全に動き、目標に向かって引き金を引き、キリングビーたちを盾にして隠れていたコマンドビーを撃ち抜いた。
『ナイスッ』
チルチルがそう口にしながら自分も魔導長銃を撃って、防衛網を抜けたキリングビーの一体を落とした。それにシーリスがレッドアラームの親指を立てさせて反応する。この場にいる者の多くはハンターの中でも上澄みの部類で優秀であった。
(ああ、みんな良くやってる。頑張ってる。けど……)
リリがフォートレスビーの群れを一掃し、突撃部隊が血脈路に入ってからそれなりの時間が経過している。その後は散発的にキリングビーが襲ってきたが、次第に連中は数を増していき、現在ではコマンドビーが従えた群れや、フォートレスビーの姿も確認できている。
(数が多い。多分、島中に散っていたのが集まり始めている。纏まって攻めてきているわけじゃないにせよ、それも時間の問題か)
そう考えているシーリスの耳に爆発音が響いてきた。
「何?」
音の方へと咄嗟に視線を向ければ、黒煙が上がっていてアーマーダイバーの何体かが地面に落ちていく姿が見えた。
『クソッタレ。自爆する個体が混じってやがるぞ』
何が起きたのか困惑するシーリスの耳に指揮をとっているギアの言葉が聞こえてきた。そして、その内容には耳にしたハンター全員が驚愕する。
『ハァ? マジっすか。そんなの出るんすか』
「チッ、アレか」
シーリスが周囲を見渡し、他とは違う個体が群れの中にいるのに気付いた。即座に引き金を引いてその個体を撃ち抜くとカッと光って爆発し、周囲にいたキリングビーたちも巻き込まれて吹き飛んでいく。
「なるほど。爆発する蜂かい。ありゃあ近づけたら不味いね」
『良くやったシーリス。全員気を付けろ。赤く丸い個体が群れの中にいる。おそらくは新種、呼称をスーサイドビーとする。アレに接近されるな。あの威力、量産機なら一撃でお陀仏だぞ』
ギアの警告を聞いたハンターたちに緊張が走る。それと同時にスーサイドビーと名付けられた飛獣が一斉に群れの中から姿を現した。
『ホォ。仲間を巻き込むと知れた途端にそう動くか。よく仕込まれてる』
キリングビーを盾としつつも、爆発しても仲間への被害が少ない程度にスーサイドビーは距離を空けて動くつもりのようだった。
その動きを見てギアの脳裏には先ほど空中に映っていた小太りの男の顔がチラついた。どうやら相手は『そう言う仕込みもできる』のだと察して、眉をひそめる。
『ふん。集中してスーサイドビーを狙え。だが密集している群れの中にもまだ隠れている個体がいるはずだ。油断せず、距離をとって確実に仕留めろ! 近づくなよ。さっきも言ったが近距離で爆発に巻き込まれればアーマーダイバーでも死ぬぞ!』
ギアの怒号のような指示の元、アーマーダイバーたちが散開し、爆発音を響かせながら戦いはさらに加熱していくのであった。
この話描いてる途中で、雄蜂の生殖器が暴発して爆死する記事を見たのでスーサイドビーの性別は雄になりました。可愛そう。