044 アーマービー
ガガガガガと音を立ててガトリングガンが打ち鳴らされる。それを人型魔獣は回避するが完全には避けきれずに足が千切れ飛び、そのまま直撃弾を受けて即死した。
「ふーん。アーマーダイバーに似てるだけじゃないね。速度、反応共にキリングビーよりも速い。コマンドビーと同じランクC程度?」
複数の個体から針の弾丸が撃たれて、ブルーバレットが旋回して避けていく。
『チン……いや、その飛獣はアーマーダイバーを模したアーマービーと呼称しよう。手強いぞ』
さりげなく問題のない名称を決めるラインは優秀であった。
「そうだね。射撃できる飛獣ってのはそれなりに厄介。このままだと難しいか。リリ姉、アンを借りるよ」
『オッケー。アン、行って!』
リリの指示でシルフの一機であるアンがブルーバレットへと近づき、ルッタが機体からパージさせたガトリングガンとバケツマガジンを回収した。
「頼んだぜアン。またそいつの出番はあるかもだしな」
ルッタの言葉にアンがPiと返す。
ガトリングガンの運用ではパージ後の回収が問題としてあったが、それをルッタはフレーヌのタレットドローンを借り受けることで解決させていた。オリジンダイバーのタレットドローンとはいえ、さすがに担いだ状態での戦闘機動はできないが、持ち運びに限定するだけなら可能であったのだ。
そして重しを外したブルーバレットのタクティカルアームが腰の魔導散弾銃を抜いて正面に銃口を向け、左右の腕それぞれが黒牙剣と白牙剣を抜く。本来ブルーバレットは高速機動を得意とするタイプだ。ガトリングガン持ちではよく動く移動砲台でしかなく、ここからが本領発揮であった。
『ルッタ少年。右側は我々とザイゼン殿で対処する。君たちは左を頼む』
「了解、ラインさん。リリ姉、俺はイシカワさんと組んで動くから、リリ姉は全体を見て動いてくれる?」
『イシカワと? 仲が良いね』
「リリ姉なら安心して任せられる。信頼してるってことだよ」
『ムフー』
一瞬で機嫌が良くなったリリを尻目にルッタとイシカワが並走して、アーマービーに仕掛けていく。
『そんでルッタ、どう動く?』
「フォローする。適当に暴れて」
『あいよ。久々に全開で行くぜ!』
ヘッジホッグがブースターを噴かして突撃する。
(アーマービーの能力は量産機に近いけど、流石に生物だけあって動きは機敏だ。ただ)
『あらよっと』
イシカワがニードルバレットを避けながら一機目をパイルバンカーで貫き、そのままソレを盾にして次の標的へと向かっていく。
(武器はニードルガンを除けば両腕の剣のように伸びた爪だけ。ニードルガンは単発式で、近接戦闘力も大したことがない)
ルッタはそう評するものの、スペック自体は量産機でも取り回しの良さは機械的な存在であるアーマーダイバーを凌駕している。
実力でいえばランクCからD程度のクラン所属のアーマーダイバーと同程度だろう。故に本来であれば十分に脅威ではあるのだが……
「背中がお留守なんだよなぁ」
『信頼してるってだけだぜ相棒』
背を向けたヘッジホッグに襲い掛かかろうとしたアーマービーをブルーバレットが魔導散弾銃で撃ち落とし、そのままイシカワは次の獲物へと躍りかかる。ふたりはまるで一個の生物のようにノータイムで連携し敵を落としていく。それはアサルトセルで培った協力プレイの再現であった。
またリリの乗るフレーヌも危なげない戦闘を行っている。元より高い操縦能力を持つリリや、本来は飛獣よりも対人戦の方が得意なルッタやイシカワだ。アーマービーも十分に難敵ではあるはずなのだが、多少仕留めるのに時間がかかるだけでルッタたちが危険視するほどの存在ではなかった。
一方で別の集団を相手にしているラインたちも十分に優勢ではあったが、ルッタたちほどの勢いはなく、ふたつの戦域は徐々に離れ始めていた。
『ふむ。外のクランなら厄介な相手だっただろうが、このメンツでならそう問題にはならないか。しかし、逐次戦力を投入して進めない状況というのは……ん?』
ラインがシトロニエの中で眉をひそめた。状況は極めて順調に進んでいる。ここを片付けて、その先に向かうのにもそう時間はかからないだろう。だが……とラインはこの状況にどこか違和感を感じていた。
『なんだ? 何か見逃している? ルッタ少年たちとの距離が随分と……まさか!?』
本来のライン・ドライデンであれば気付けたはずだった。けれどもルッタたちの戦闘能力の高さが敵の意図を超えていたことで状況の違和感を逆に薄めていた。そしてラインが己の懸念を察して指示を飛ばそうとした次の瞬間に
ドゴォォオオン
激しい音と共にラインたちの頭上の岩の天井が爆発して崩れ始めたのである。