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041 明るい家族計画

 周囲には十体のフォートレスビー。それらの腹の内には計二百体のキリングビーが控え、さらに後方からもキリングビーの群れが近づいてくる姿が見えていた。問題は距離だ。フォートレスビーたちが動けば、一気に乱戦に突入する。そうなれば損耗はここまでの比ではないだろう。

 また、そうした状況でなおハンターたちが動かなかったのは自身らも体勢を立て直したいという思惑があったからだ。

 さらに目の前に浮かび上がっている小太りの男がどう出るのかも気になるところではあった。


『私はハンタークラン黄金の夜明けの団長ライン・ドライデン。アンカース天領奪還作戦の指揮を任されている者だ。お前は誰だ?』


 ラインの率直な問いに小太りの男が目を細めて、口を開く。


『これはこれはご丁寧に。僕の名前はヒムラ・キョウスケ。アルティメット研究会所属の……そうだね。君らの中では蟲使いのヒムラで知っている者はいるかもね?』

『やはり今回の件を裏で仕掛けていたのはアルティメット研究会か』


 蟲使いのヒムラの名前はラインも事前にザイゼンより知らされていた。構成メンバーの多くが不明のアルティメット研究会の中でもその容姿と名前が知られている数少ない人物。そして知られているのに未だ捕らえられていないことからも分かる通り、彼はこれまでの全ての追撃を逃げ切っている。或いは壊滅させている。

 そんな男がラインの言葉に『ふふふ』と可笑しそうに笑う。


『アルティメット研究会ねぇ。いや、そうは名乗っているけどやっぱり馬鹿っぽい名前だよねぇ、それ』

『……自分たちの組織名だろうに』

『そうは言っても僕が入る前に付けられたモノだからね。究極生物の創造を目指す……とかなんとか? モンスターを改造できるプラントなんて手に入れた異世界転移者のひとりがそんなことを考えたのが始まりのようなのだけども』

『そうか。つまり貴様たちはそんな目的のためにこの惨状を招いたというわけか?』


 その問いにヒムラは『いいや』と返して、首を横に振る。


『流石にそれはないよ。構築された基礎技術はその頃からの延長線上ではあるけど、僕らにとってはソレは手段であって目的じゃない。大体僕ら異世界転移者……異邦人は、特にこの辺りに流れてくるのは日本人ばかりで、その大半は平和主義者なんだ。この世界の人間ほどに暴力という行為に縁がなかっただけとも言えるけど』


 その言葉にラインはわずかに眉をひそめる。

 イシカワやザイゼンが異邦人であることはラインも知っているし、この辺り(と言ってもかなりの広範囲ではあるが)に転移してくる異邦人の多くはニホン人と呼ばれる異世界の種族であることも知識としては把握している。

 ラインとしては到底信じ難い話ではあるが、飛獣もいない、戦争どころか、争い自体がほとんど存在しない理想郷のような世界から彼らはやってきたのだとか。

 争いがないのは日本という国の特殊な地域性によるところが大きいという事実は置いておくとしても、ヒムラの語る言葉はラインの認識と一致していた。


『組織が大きくなれば人も変わるし目的も変わっていくものさ。好奇心だけで好き勝手できるのは、そこに付随する責任を理解できないティーンエイジャーの特権でね。大人になった僕らの先輩の目的もそりゃあ変わっていったわけだ』

『ならばその目的とやらはなんだ?』


 その問いにヒムラは力強くこう答えた。


『平和だよ』

『は?』


 その言葉に聞いた誰もが呆気に取られた。天領四つを襲撃し、多くの民に被害をもたらした無法者から発せられた言葉は、その被害を見てきた彼らにとっては理解し難いものだった。


『平和だと? この惨状がか? 貴様の言っていることはメチャクチャだ。言っていることとやっていることが真逆だぞ!?』

『そうでもないさ。これはあくまで過程だ。僕らの平和のためのね。君は随分と育ちが良さそうだから理解できると思うけど、平和というものを維持するためには力が必要だ。飛獣なんていうものがいるこの世界であれば尚更にね』

『…………』


 ヒムラの言葉にラインは反論しない。それは事実で、領主は自領の平和の維持のために戦う力を求め、だからこそアーマーダイバーが存在する。暴力とはこの世で最も原始的で確実な手段だ。ペンは剣より強しとも言うし、それもまた正しくはある。けれども、それは平和という状態の中でのみ適用される真実だ。無法の上では意味をなさず、暴力が法である世界では成り立たない。


『そうさ。生物は食べるために殺し、住まうために奪い、増殖していく。その過程でぶつかり合えば争いは発生し、互いの平和を脅かす。それは人間だろうと同じことだよ』

『だから平和を維持するための戦力を欲し、お前たちはランクSの飛獣を作ろうとしているというわけか』

『うん、その考えで間違ってはいないね。頭の良い人は嫌いじゃないよ』

『そして、その平和とやらはお前たちアルティメット研究会だけの話で、その中に我々は入ってはいないわけだ』


 ヒムラが目を細める。問題はそこだ。ヒムラの言う平和とは彼の属するアルティメット研究会の平和だ。天領に住まう者たちの平和ではないのはここまで彼らがしてきたことを思えば明らかであった。


『まあ、そうだね。僕らも君たちを家族に迎え入れてあげたいとは思っているんだ。けれども、適合できない君たちでは無理なんだよ。家族に成ることはできない』


 本心から悲しむような顔をしてヒムラがそう告げる。


『アルティメット研究会は外敵を退けるための力と並行して、内の問題へのアプローチも行ってきた。人間は疑う生き物だ。利己的な存在だ。人と人が分かりあえぬ限りどうあっても争いは生まれ、偽りの平和の中でシミのように広がってやがては全体を燃やし尽くしてしまう。これは人の歴史の上でも明らかな事実だ』


 そう言った後、ヒムラは『だけど』と力強く言った。


『僕らは違うんだよ』


 確信を持った言葉。


『疑いもなく、欺瞞もなく、誤解なく人と人がわかり合える……僕らはそう『成った』。僕らは家族になったんだ。けれども悲しいかな。家族になれる人間は限られている』


 そう言いながらヒムラは笑う。

 同時に周囲の気配が変わっていくのをハンターたちは感じとった。


『だから残念だ。僕らの平和な世界に君たち旧人類は入れない。表向きは取り繕えたとしても、心の壁を越えられない君たちは平和を脅かす異分子にしかなり得ない』


 フォートレスビーが動き出し、周囲から殺気が湧き上がる。即ち、ここよりは言葉ではなく、刃を持って応じろと。無論、ラインも言の葉の交わし合いながら準備は整えていた。


『それじゃあそろそろいいかなラインさん? 心の準備をする時間は十分にあげたよね』

『ライン団長ッ』

『問題はない。突入部隊は一旦周囲殲滅を優先して』『さあ盛大に泥試合を始めようじゃ』


 ギュルン


 それは一瞬のことだった。

 ラインとヒムラが同時に言葉を発している途中で、空間に銀色の光が走った。それは瞬きの合間ほどの一瞬。そのわずかな時間にタイフーン号を中心にして高密度の魔力刃が360度回転しながら一閃され、フォートレスビーのすべてを斬り裂いた。


『『は?』』


 そして呆気に取られたその場の全員の視線はタイフーン号の上に浮かぶ、銀色の光が消えつつある機体に向けられた。それはたった今、恐るべき一撃を放ったオリジンダイバー『フレーヌ』であった。


『うん、片付いた。じゃあ進もうかルッタ』

『そうだね。難しい話も終わったみたいだし』


 そして、彼らは知ったのだ。オリジンダイバーがなぜ戦場において畏怖されているのかを。彼らと出会ったのであれば死を覚悟せよと言われているその所以を。

 リリ・テスタメントは確かにオリジンダイバーの真価をその場の全員に知らしめながら、蒼き機体と共に戦場へと参戦したのであった。

ライン「オリジンダイバーの真価? 何それ。知らん。コワ……」


 ブーステッド状態での全エネルギーを使用したフレーヌの超必殺技。リリ姉は会話の内容も聞かずにいい感じでフォートレスビーが並ぶ頃合いを窺っていました。

 機体負荷がかなり大きくはありますが、最大効果を狙ってサクッと使用。洞窟の中でこんなんブッパしたら崩落するしね。リリ姉は判断が早い。

 ちなみにルッタくんはヒムラの話を「いろんな人もいるんだなー」ぐらいの気持ちで聞いてます。

 そして、ここからが島喰らい編本番です。ようやくルッタくんたちが暴れられますよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ニュータイプがオールドタイプを駆逐する あるいはコーディネーターがナチュラルを駆逐する 古いSFではミュータントが旧人類を駆逐する ってトコかな 昔っからあるテーマだねぇ あ、も一つあった…
[良い点] リリ姉は素で興味がないし、ルッタはぶち殺すから理由とかどうでもいいっていう…… [一言] >ライン「オリジンダイバーの真価? 何それ。知らん。コワ……」 ジャッキー「分かる」 ラインとオ…
[一言] アルティメットの奴等は精神的に繋がるとかなんかしてるのかな?まあ平和とは程遠い組織理念だよな。
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