040 サプライズパーティ
『ウ、ウォオオ、ゆれ、揺れた。ガコンって言った。言ったぞ!? ヤバいんだ……ぞ?』
『イシカワうるさい』
『わ、ワル……ウォォオ』
(あー、パニックになっている人間を見ると逆に冷静になれるってこういうことなんだろうなぁ)
アンカース天領内を爆進中のハンター軍団の先頭を突っ切るタイフーン号のガレージ内で、ルッタは騒ぐイシカワの様子を見ながらそんなことを思っていた。
『彼はいつもこうなのかね?』
「さあ? ちょっと前に拾っただけだし。心境は同じあっちの世界の人であるザイゼンさんの方が詳しいんじゃないの?」
『なるほど。確かに。ただこういうのはどこの世界というよりもこれまでの経験次第だからね』
「まあ、そうかも?」
一般的な天領に住まう人間とて討伐された飛獣を見たことはあっても、生きている飛獣と遭遇することなどほとんどない。ましてや飛獣の群れに突っ込むような事態を経験することはハンターであっても早々あるものではないだろう。
『しかし、あのライン・ドライデン……彼は随分と優秀な指揮官のようだ』
「オリジンダイバー乗りじゃあなければ、指揮してた方が活躍できそうだね」
『確かに』
現在、ハンター軍団はオリジンダイバーシトロニエの中で待機中であるラインが指揮を執っている。
元々人の上に立つべく教育を受けてきたラインはその眼の良さも相まって操縦よりも指揮能力に秀でている。であれば自ら前線に出るよりも指揮を執っている方が良さそうなものなのだが、彼はそうした本人の適性を無視できる程の戦闘力を持つオリジンダイバーに搭乗可能な素質も持ち合わせていた。
結果としてライン・ドライデンは戦闘と指揮の双方を担っていた。
なお、シトロニエには雲海船の機構と繋がることで周辺マップの構築や指揮系統の情報を集約するシステムがあるそうで、それ故にラインはシトロニエで現場に出ながらも的確な指揮を行うことが可能なのだとルッタは聞いている。
(今の時点でこちら側の被害はほとんどない。ラインさんが優秀なのは間違い無いんだよね)
流石に被害ゼロとはいかない。
右翼側に配置されたランクCクランの船団がラインの指示に従わず前に出過ぎた結果、キリングビーの群れに飲まれ、その持ち直しのために突撃したスカルクラッシャーズの雲海船一隻と何機かのアーマーダイバーが墜ちたようだと報告があった。
(島の前の第一陣、領都に向かうまでの間に敷かれた第二陣。ああ、島に入ってすぐのフォートレスビーの奇襲もあったっけ)
待ち伏せによる襲撃は最初の一度だけだった。
そもそも沈んだとはいえ、雲海船が島に侵入できるルートは限られており、襲われたのは通過する可能性の高い港町があったエリアでのことだ。その後に領都に向かうルートは直線上から若干迂回したものにするようラインから指示が出ており、敵の第二陣に関しても飛獣たちがたまたま遭遇したハンター軍団に襲撃を仕掛けた形で、それ故に飛獣の群れの陣形にも偏りがあった。
結果として群れの密度の差がランクCクランの油断を呼んで被害を出したわけだが、それ以外は概ね順調と言っても良い結果に収まっている。
『ここまでは悪くない。問題はどうあっても我々の向かう先と確定している領都だろう』
「そうだね。あ、領都が見えてきたよ」
その言葉の通り、ルッタの目にはタイフーン号のカメラと連動したアーマーダイバーの水晶眼を通して領都の影が見え始めていた。同時に領都の前に並ぶキリングビーの群れの姿も確認ができたのだが、それはまるで壁のようだった。
『大層な数だが』
「あ、ラインさんが仕掛けるらしいね」
ガクンとタイフーン号の動きが遅くなり、黄金の夜明けの雲海船三隻が交替する形で前へと出る。
『これより、黄金の夜明けの切り札を使う。どの船も前に出るな。巻き込まれるぞ』
ラインに注意と共に、黄金の夜明けの雲海船の船頭が開いて、中から竜頭を模した砲台が出現する。
『アレは拡散ドラグーン砲か?』
「いや、よくは見えないけど多分形状が若干違う……かな?」
そんなやり取りがある中、タイフーン号に装備されている遺跡兵器とよく似たソレが放電をし始めた。
『収束ドラグーン砲、撃てぇぇええ!』
ラインの掛け声と共に収束ドラグーン砲三門が一斉に放たれ、ハンター軍団の姿を確認して近づき始めていたキリングビーたちが次々に光に飲まれて落ちていく。
『薙ぎ払え!』
さらに雲海船の角度をずらすことで光線が領都上空を横薙ぎに流れていき、より多くのキリングビーたちが焼き殺され、衝撃波で吹き飛ばされていった。
『突き進めぇぇええ!』
そしてキリングビーの群れの混乱が収まらぬうちにラインの指示でハンター軍団が進撃していく。生き残った飛獣たちはパニックとなっており、それらの正気が回復してまともに動く前にアーマーダイバーたちによって次々と撃ち落とされていった。
『ヒュー。コイツはすげぇ。鎧袖一触とはまさにこのことだなぁ』
先ほどまで怯えていたイシカワが嘘のように上機嫌で、その進軍を見ている。もはや敵はなしとばかりの快進撃。全ては順調であった。
そうしてアンカース天領の領主の住んでいたであろう崩れた居城の前、天導核のある心臓室に通じる血脈路の入り口にまで彼らはついに到達した。
『良し。道は開いた。防衛部隊は周辺を確保。突入部隊は船から出て集合を』
そのラインの指示が言い終わる前に、ズドォオオオンという轟音が周囲360度すべてから響いた。
「な!?」
それにはルッタも目を見開いて声をあげる。
見れば、地面の中から起き上がる無数の影が確認できた。それは島に上陸した最初に相対した飛獣フォートレスビーだ。その数は実に十体。それはつまるところ、敵戦力はフォートレスビー十体に加えて、内蔵されたキリングビーが二百体も控えていることを示している。
『先の戦闘に参加させずに待機させていただと?』
ラインが驚きの顔でフォートレスビーたちを睨みつけ、そして一同がその状況に驚愕している中、
『うん、いらっしゃい。ハンター諸君』
突如として空中に小太りの微笑みデブの姿が映った。
『……ヒムラキョウスケ、やはりお前か』
そして、その姿にザイゼンはひとりそう呟いたのであった。
そろそろ出番だな……とルッタくんたちもアップを始めました。