039 備えあれば憂いなしの精神で
狙撃班が指令個体であるコマンドビーを狙い撃ち、混乱するキリングビーを攻撃班が各個撃破する。その狙いは的確で、飛獣の群れは次々と落ちていく。さらに遊撃班が陣形の外へと飛んで、迂回する形で左右から挟み込んでキリングビーの群れを襲撃することでさらに討伐の速度を上げていった。
それはまるで一個の生物の如き動きであり、飛獣の群れは瞬く間に数を減らし、島に辿り着く頃には一匹残らず殲滅することに成功していた。
「終わりましたかね艦長?」
「そうだな。第一陣はというところだろうが、うまくハマったようだ」
タイフーン号のブリッジでギアとラニーがそんな言葉を交わし合う。
「第一陣は足止めだろうよ。まあ、足止めにもならなかったんだが」
「さすがにランクAクラン。指揮のとり方も鮮やかですなぁ」
ラニーが素直に褒め称える。先頭にいるのはタイフーン号だが、今回の作戦での立役者は黄金の夜明けのクランリーダー、ライン・ドライデンの指揮によるところが最も大きいのはギアたちも理解していた。
「ライン・ドライデン。アレは恐ろしく目が良いな」
ギアがそう評する。
確かに上手くはいった。けれども危ういシーンは何度かあった。だがランクCクランの機体が前に出過ぎたのをラインは即座に口頭注意で止め、竜雲海内から潜航してきたキリングビーに対しても接近される前に指示を出して堅実に潰していた。
時折、妙な巧みさで防御網を抜けようとした個体もいたが、いずれも出がかりでラインが気付いて止めているのをギアは確認している。
(シーリス曰く、あまり自分に自信がなさそうな男だということだったが、なかなかどうして。彼の指揮無くしてはいくばくかの犠牲は出ていたはずだ)
そう考えてラインの評価を上昇させるギアだが、先の戦いでは懸念するところもあった。
「しかし艦長。飛獣が引き際を心得てい過ぎている気もしますね。それに先ほどの戦い、人間の小狡さみたいなものも感じました」
「そうだな。ザイゼン、あの男の嗅覚は正しかったということだろうよ」
ふたりは飛獣の動きがどこか統制され過ぎているように感じていた。通常の飛獣にあるような本能に根差した動きとはどこか違っていたのだ。
(ザイゼンからはアルティメット研究会の蟲使いヒムラという男が関わっている可能性を指摘されているが)
それは事前に全てのクランに通達されている情報だ。人為的に操作されている可能性があるために飛獣が通常とは違う動きをするかもしれないことと、飛獣を操っている人間が確認できた場合には可能な限り捕縛して欲しいとザイゼンからは告げられていた。
これはザイゼンの私情によるものではなく、あくまでも今回の騒動を引き起こしたアルティメット研究会を追い詰めるためのハンターギルドの意向によるものであった。そのため、元々かけられているヒムラの賞金首の懸賞金にさらに上乗せの報酬も提示されている。
「となれば襲撃の第二弾の前に散発的な嫌がらせもありそうだが」
「艦長、真下から反応があります」
「待ち伏せ? ハァ、島に上陸した途端にこれか」
現在ハンター軍団はアンカース天領の島上100メートル上空を飛んでいる。飛獣が飛んで待ち構えていたのであれば翅にリフレクトフィールドを発生させるために活性化された魔力を察知して気付けただろうが、直前まで地面に伏して隠れていたのであれば当然発見も遅れてしまう。
『ギア艦長、避けろ。でかいのが近付いているぞ』
「忠告感謝するライン団長。だが問題ない」
タイフーン号のレーダーに映る下方よりの反応は通常の個体よりも随分と巨大だった。
「大型個体、恐らくはフォートレスビーだろうな」
ギアの口にしたフォートレスビーとは全長20メートルを超える巨体を持つランクC飛獣で、キャリアアブドーメンというキリングビー二十体を収納できる腹部を有している。
戦闘能力こそ低いものの、その巨体だけでも厄介な上に甲殻は硬く、接近されてからの二十体いるキリングビーの襲撃は雲海船にとっては非常に脅威であった。
けれどもギアは焦らない。この状況に驚きはしたが想定内でもあった。
「副長、準備は?」
「問題ありやせん」
「では拡散ドラグーン砲発射だ!」
ギアの合図とともに真下に角度調整された龍を模した砲塔から無数の光が放たれ、それは竜雲海の霧を霧散させながら接近してきたフォートレスビーへと直撃する。
「ギギ? ギィィィイイ!?」
フォートレスビーの甲殻は魔導銃にも耐えるが、複数の光撃を喰らっては防ぎ切れるものではない。そのまま光のシャワーは体内に収めた二十体のキリングビーと共にフォートレスビーを削り切り、そのまま下方の大地をも爆散させて土煙が上がった。
「ふむ。我々の船の真下を襲ってくれて助かったな。陣形に乱れが出ては面倒だった」
『はっはっは、さすが風の機師団。伝え聞く通りの剛勇さだ』
そしてラインが笑い、他のハンターの雲海船からも一斉に歓声が上がった。