038 レッドスナイパー
『偵察部隊から伝達。島からキリングビーの群れが接近中です。その数、百を超えています』
『来たか。まあ予定通りではあるな。それではタイフーン号を先頭に矢尻の陣形を維持しつつ迎撃準備に入るように』
ハンター軍団が沈んだアンカース天領に接近したのに合わせて島の方より飛獣の群れが動き出し始めた。
それらはキリングビーと呼ばれるランクD飛獣の群れだ。単体であってもその尾より出ているヴェノムニードルの一撃は脅威であり、アーマーダイバーの装甲をも貫き、内部に注入された毒はパーツを腐食させ、気化した毒霧が乗り手に接触しようものなら死に至る可能性もある。
対してハンター軍団はラインの指示の元でタイフーン号を先頭にした三角型の陣形で挑んでいく。
先頭が今回の旗振りである黄金の夜明けではなくタイフーン号なのは、ひとえにジェット・リスボンの乗るフォーコンタイプの防衛特化改造機体『ツェット』の護りが、他の船の護りよりも強力だからだ。実際ツェットの防御に対しての信頼性はオリジンダイバーに匹敵するものがあり、それは風の機師団以外にも知れ渡っていた。
「シーリス姉。俺たちはやっぱり続けて待機?」
『まぁねぇ。ルッタは突入部隊だからね。そもそもアンタは体力ないんだからギリギリまで出さないわよ』
「ぐぬぬ、最近は筋肉ついてきたんだけどなー」
『そいつを見せるのは後にとっておいて、ここはあたしたちに任せておきな。さぁ、接敵するよ』
そんなやり取りが行われているが、シーリスの乗るレッドアラームはタイフーン号の甲板上にいて、ルッタの乗るブルーバレットはガレージでフレーヌ、ヘッジホッグ、それとレッドアラームに代わってガレージ内に入ってきたニンジャと共に控えていた。領都までの戦闘は防衛部隊が担当し、突入部隊はそれまで待機。それはあらかじめ決められていたことだ。
「ハァ、こういう待ってるだけの状態って心臓に悪いよね」
『僕らはいつもそうなんだけどね。特に戦闘後によく倒れるパイロットの専属なんかはしんどいよ』
「あー、そいつはそうだね。大変だー」
ボヤキに反応したコーシローの言葉にルッタは誰も見ていないのに視線を逸らすように明後日の方を見た。
『整備士は機体が出る前と戻ってきた後が本番だ。そして僕らにできるのは信じて待つこと。ルッタも自分の役回りを果たすために準備をしておきなよ』
「うん、了解。信じて待つ……そうだね」
そう返しながらルッタは大きく息を吐いて、目を閉じた。ここはシーリスやジェット、彼らの戦場だ。ルッタは緊張を解き、自身の戦場にたどり着くまで最大限リラックスしようと努めることにした。
『お、おい。マジかよ。ドンパチ始まったぞ。やべえよやべえよ』
『落ち着けイシカワ。私たち抜きでも彼らなら十分にやれるはずだ』
『イシカワうるさい』
なお、他の待機メンバーもひとりを除いて落ち着いているようだった。
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「さーて。任せなって言った手前、ミスれないよねぇ」
魔導長銃を構えたレッドアラームの中で、シーリスがそう言って目を細めた。
『シーリス、気負うなよ。普段のお前なら問題ない』
「あんがとジェットの旦那。でも珍しいね、旦那が戦闘前に声かけてくるのって」
『フンッ』
(旦那も緊張してんのかね。ま、そりゃそうだわな。ここまで大規模な戦闘ってのはあたしも風の機師団に入って二、三度くらいだし)
先頭は風の機師団のタイフーン号。続いて黄金の夜明けの雲海船三隻が横一列に並んで、さらに後方に防御力の高い雲海船を外に回して三角形の陣形で突入となっている。タイフーン号の甲板にはシーリスのレッドアラーム、またナッツクラッシャーの副長チルチル・リンランの機体とスカルクラッシャーズ所属の機体も並んで陣取っている。
いずれの機体も狙撃タイプ。黄金の夜明けの甲板にも狙撃タイプの機体が並び、計七機の狙撃タイプが、迫るキリングビーの群れに対して構えていた。
『間も無く射程圏内に入る。狙撃班は撃ち方準備』
正面から迫るキリングビーの群れの中に、若干大きな個体が存在しているのが確認できる。それはキリングビーの群れを指揮する指令個体だ。コマンドビーと呼ばれているソレはキリングビーがランクDなのに対してランクCに位置する飛獣である。シーリスはその個体に照準を合わせる。
(まずはアレを叩く)
『カウント始める。3、2、1。撃てぇえ!』
直後、狙撃班全ての機体の魔道長銃が一斉に火を噴いて、シーリスは己の狙ったコマンドビーの頭が吹き飛んだのを確認した。
「良しッ」
シーリスがそう口にしたのと同時にキリングビーの群れが散開し、雲海船の魔導砲と周囲に展開していたアーマーダイバーの魔導銃が続けて撃たれ始めた。