036 ヴァリアブルマシーン
模擬戦を終えた翌日、黄金の夜明け率いるハンタークラン軍団がアンカース天領へと向けてジナン大天領を出立した。強行軍ではあったが、時間的猶予はあまりなく、風の機師団も物資補給などをハンターギルドから優先で回してもらって足並み揃えての出航となったのだが……移動する風の機師団のタイフーン号には一隻の小型雲海船が接続されていた。正確に言えば、それは雲海船に簡易変形したアーマーダイバーであった。
「しばらく厄介になる」
そう言って、タイフーン号にやってきたのはハンターギルドで出会ったザイゼンだ。対して出迎えに甲板へと上がってきたギアは肩をすくめて笑いながら口を開いた。
「ギルドからの要請だからな。こちらとしても問題はない。とはいえだ。別に無下にするつもりもないが、わざわざ積載量に余裕のないウチに来なくても良かったんじゃあないかい?」
「異邦人が居るのはこの船だけだったのでね。まあ用心のためさ」
タイフーン号のガレージは以前に拡張したことで五機分の機体が収容できるハンガーが存在しているが、元メイサ機が出ていった現在でも、ブルーバレット、レッドアラーム、ツェット、フレーヌだけではなく、イシカワの愛機であるヘッジホッグも入っている。
そのためにタイフーン号に転がり込んできたザイゼンの機体を収容するスペースはなかったのだが、ザイゼン機は小型雲海船に変形して、タイフーン号に引っ張られる形で竜雲海を移動していた。
それをギアと共に甲板に上がっていたルッタとコーシローが驚きの顔で見ている。
「うわっ、見てよコーシローさん、あれやっぱりアーマーダイバーだって」
「はー。小型雲海船っぽいけど、下にアーマーダイバーがついてるっぽい?」
そんなやり取りをしているふたりにザイゼンが笑顔で近づいてくる。
「やあルッタくん。アレはニンジャと名付けている私の愛機さ。モワノータイプベースの高出力型アーマーダイバーで、ああして雲海船もどきに変形もするんだ」
「どうもザイゼンさん。変形するアーマーダイバーなんてあるんだね」
ルッタも戦闘時にフォームチェンジするアーマーダイバーが存在することは知っているし、ブルーバレットも頭部限定だが可変機構は備えている。けれども雲海船に変形するタイプは流石に聞いた覚えがない。
「そんな大層なものじゃないんだがね。雲海船の部分はバックパックウェポンのフライヤーというものだ。加速と機体を隠す機能もあるが、こうして雲海船代わりにもなる。一応ひとりでも生活できるだけの小さな居住スペースも入っていてね」
「へぇ。それは良いね」
雲海船にもなれるならソロでの活動も可能ということだ。風の機師団を抜けるつもりはないが、ソロハンターというのも憧れるものがある。
「私は単独行動が多いので、ひとりで行動しやすいように改造してあるのさ。船導核も積んでるからコストはかさむがね」
「船導核を積んでる? でも機導核と船導核を一緒に起動したらまともに動かせないんじゃないの?」
アーマーダイバーは機導核を通じて乗り手と一体化することで操作が可能となるが、乗り手と繋がっていなければ動かないシロモノだ。そのため、アーマーダイバーだけでの竜雲海の移動は不可能ではないが長距離の場合は色々と難しいものがある。
一方で船導核は機導核に比べると大型で、アーマーダイバーの制御も担う機導核とは違い、魔力を出力するだけの動力源であり、特定の乗り手を必要とはしないために人と繋がっていなくとも動き続けてくれる。
であれば、機導核と船導核を同時に積めば総合出力も上がって良いのでは……となれば良いのだが、機導核や船導核は距離が近くなると相互干渉をして出力を上げるどころか動くことすらできなくなる。同じ機体に積もうものなら確実に機能不全に陥るため、並列して動かすことはできないのであった。そのために雲海船のガレージや甲板などは干渉対策としてシールド処理をしてある。
なお、これは機導核同士の方が顕著で、アーマーダイバーに二基積んで高出力するというようなことができない理由のひとつでもあった。
「そうだな。だからニンジャには高出力型機導核と小型船導核を積んではあるが、分離していない場合はどちらか片方しか動かせないのさ」
「なるほど、スイッチしてるってことかぁ。うわー、金かかってるねぇ」
移動時と戦闘時、それぞれでどちらかは使えないのだ。中々に贅沢な造りであった。
「というかさー。イシカワさんにザイゼンさんもそうだけど……もしかして異邦人ってみんな高出力型に乗れるの?」
「そうだなぁ。天導核から出てきた異邦人の魔力はみんな多いらしいな。俺は高出力型に乗るにはギリギリ足りてないんだが」
一緒にいたコーシローがそう言う。
その事実は転移者たちが高位の魔術師になれる素養があることを示しているのだが、竜雲海上では魔術の安定使用が難しい。またアーマーダイバーという戦力もあるため、この断崖大陸アーマンでは治癒魔術などの一部を除けば魔術自体が衰退する傾向にあった。
それに高出力型の機体に乗れる素養はあっても、実際に搭乗するには操縦技術や機体の入手等問題が多くあり、イシカワやザイゼンのように乗り回せるのは本当にごく一部の異邦人だけである。
そして、そんなやり取りをしているとザイゼンがコーシローに視線を向けた。
「おっと、すまない。挨拶が遅れてしまったね。君が風の機師団の異邦人……いや日本人の人だね」
「どうもザイゼンさん。僕はジンナイ・コーシローって言います。甲子園は見てました」
「はは、懐かしい話だ。あちらでは私は入る球団に納得が出来なくて失踪した扱いらしいが」
「あー」
ルッタの前世である風見一樹の記憶にあった通り、ザイゼンの地球においての現状の扱いは指名された球団が気に入らなくて失踪した人物であり、コーシローもそのニュースを覚えていたので微妙な顔をする。
真実はこの世界に強制転移されて戻ることは叶わない状況だったのだが、地球でその事実を知る術は当然なく、長く時間の経った今となってはもうどうしようもないことだった。
「一応、私自身は納得していたのだがね。もはや今の私にとってはどうでも良いことだが」
「そちらの現状については聞いています。その……奥さんを連中にさらわれたのだとか」
「ああ、今年で五年になる。とはいえ、それは私の問題だ。君たちは君たちの仕事を集中してもらいたい。余計なことに気を取られて、どうにかなりそうな依頼内容ではないからね」
「分かりました。ただ、同郷の人間として、できる限りの協力はさせていただきますよ」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで私も救われる」
そう言ってザイゼンとコーシローが握手を交わす。
(ザイゼンさんの狙いはアルティメット研究会……とはいえ、連中が関わったという証拠は今のところない。今回のことで何かしらの足跡が見つかれば良いんだけど)
ザイゼンは確かに己の妻を取り戻すことを考えて動いているが、アルティメット研究会の目的を暴くことは今後同じような悲劇を起こさないことにも通じるのだろう。ルッタはそう考え、今後の戦いへの闘志を燃やすのであった。
フライヤーはリでガでズィさんのバックでパックでウェポンなヤツですね。盾で隠してないので下から見ると普通に顔が見えて「うーん」ってなって、変形と言い切るのを躊躇う感じになってます。
余談ですが、みなさまはBB戦士ユニ◼︎ーンを見たことがありますでしょうか。これにはBB戦士オリジナルのビーストモードというのがあるのですが、その変形機構というのがチョンマゲをおっ立てさせて、ヨツンバインにし、ビームサーベルア◼︎ル挿しさせて完成という実にアヴァンギャルドな形態です。さすがは可能性の獣というところでしょうか。業が深い。私個人としてはコマネチを強要されるキュリ◼︎スくんよりも高みにある尊厳破壊形態だと思いますので性癖を拗らせたメカフェチ上級者の方にはぜひ見ていただきたいですね。