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016 今そこにある危機

「よし、揃ったな」


 乗り手のルッタ、シーリス、リリ、ジェットの四人全員に情報元であるイシカワ、それに航行と警戒のための最低人員を除くクルーのほとんどがブリーフィングルームに揃っていた。そして壇上にはギアとラニーが硬い表情をして立っており、予定していた全員が集合したことを確認してから頷いた。


「突然の召集ですまんが、緊急で話しておかないといけないことができたんでな。質問は後で受け付けるからまずは話を聞いてもらう」


 そう言ってギアが一歩前に出て、クルーたちを見渡す。


「現在当艦はジアード天領からアーダ天領を経由してジナン大天領に向かう予定だったのはこの場の全員が知っての通りだ。実際今夜にはアーダ天領に着く予定だったが、それを変更してタイフーン号はこのままジナン大天領へと直接向かうこととなった」


 その言葉に室内がわずかに騒ついた。

 ジアード天領からあまり休みのないままに活動してきただけに、この場の全員がアーダ天領では多少は休息が取れると期待していたのだ。もっともいつもにも増して凄みのあるギアの表情を見れば、休みが取れないことに愚痴をこぼす者はいなかった。


「ラタール、備蓄に関しては問題ないな?」

「大丈夫だよ艦長。ジアードではみんな随分と良くしてくれたし、食料はたんまり仕入れてある」


 料理長であるラタールがそう返す。

 今後出費が多いジアード天領からは報酬の前払いとして現物の物資を多く搬入してあった。


「ということだ。物資に関してはまだ十分な余裕はある。その点では予定を変更することで問題はない。念のため、足りないものがないかのチェックはしておけよラニー」


 その言葉にラニーが「了解っす」と返した。


「うん。それでだな。今回予定を変更した理由なんだが、ジアード天領でのガルダスティングレーの襲撃が人為的に行われた可能性があるという話はクラン内で共有していると思う。まあジアードにいる時点ではまだ根拠は蛇蝎香ぐらいだったんだが……」


 犯人がアルティメット研究会の可能性は指摘されたが、それもシャークケルベロスという種を生み出したのが彼らだという状況証拠的なものからだ。すでに自然繁殖もされている飛獣であるために根拠というには薄い。


「先ほど当艦に乗船してきたイシカワから伝えられた情報でその疑いがさらに強まった」


 その言葉に何人かが首を傾げた。新たな情報で疑惑が明らかになるとして……それが予定を変える理由には思えなかったのだ。もっとも続けてのギアの話を聞けば、その疑念もすぐに吹き飛ぶこととなる。


「ま、問題はそこじゃあねえんだがな。犯人探しするよりももっと深刻な状況が現在進行形で起きている可能性が生じてきた。ラニー!」

「うっす」


 ギアの合図とともに中央のテーブルに近隣の竜雲海図が広げられる。そしてギアがジアード天領、ジナン大天領、さらにこれまで話題に上がったこともない天領みっつにそれぞれ駒を置いていく。


「知っての通り、ジアード天領は今後飛獣対策の戦力増強が必要で、我々はその依頼をジナン大天領のハンターギルドに代理で行うべく動いていた。本来であれば自領の人間を使って伝達すれば良いのにそうしたのは、蛇蝎香の影響もあってジアード天領は孤立状態にあったからだ。何隻かは出していたようだが結局外からの情報はまだ届いていなかったわけだしな」


 一応近隣の天領とは相互での連絡は取れているが、こういう状況下で助けになる大天領へ向かっていってジアード天領に戻ってきた雲海船はまだなかった。蛇蝎香の影響もあって雲海船の移動も通常よりも慎重になっているため、どうしても時間がかかるし、道中で飛獣に襲われている可能性も否定できない。

 だから風の機師団という確実に大天領へと伝達ができるであろうクランに依頼をしたオルベインの判断は確実性を考えれば正しい。


「で、そうして情報が閉鎖されている間に外では別の問題が既に起きていたってわけだ。まずはここだ」


 ギアが指差したのは見知らぬ天領の一つに置かれた駒だった。


「ルビアナ天領。ジアード天領が襲われたのと同時期にここもランクA飛獣の群れによる襲撃を受けたそうだ」

「は?」


 ソレは誰の言葉であったか。ともあれ、思わず漏れた呟きはこの場の多くのクルーの気持ちそのものであり、ギアもそれが理解できているから、あえてスルーをして話を続けていく。


「ルビアナ天領は元々近隣の飛獣のランクがそれなりに高いところでな。だから防衛力もそこそこある。なんで一応天領内の戦力だけで撃退には成功した……が、被害は甚大だ。聞いた限りじゃジアード天領よりもずいぶんとやられちまったそうだ」


 そこまで言い終えたギアの言葉にクルーたちの表情は暗い。ジアード天領の惨状を知っているだけに、それ以上の被害を想像して言葉が出なかった。そんなクルーたちの反応をよそにギアは、続けて二つ目の駒を指差した。


「で、次はこのヴァークレイ天領だ。こちらもランクA飛獣の群れに襲われた。そんで天導核が喰われて」


 続けて吐き出すようにこう口にした。


「島は墜落した」

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― 新着の感想 ―
[一言] どこも撃退・防衛成功したわけじゃあなかったか
[一言] Ifを見せつけられてるようでツラい…
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