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014 ノットイコール

「…………」


 ルッタがジト目でイシカワを見た。

 発せられた名前はクリティカルなもので、何かしらの根拠がなければ出ないものではあった……が、ルッタは特に慌てる様子もなく、極めて冷静でいた。


「あれ、違った?」


 逆にその薄い反応に狼狽えるイシカワであったが、対してルッタは軽く溜息を吐く。カザミー。それはルッタの前世である風見一樹のアサルトセルでのプレイヤーネームだ。何かしらの間違いで尋ねられる名前ではない。


「その……さっきの戦い見て間違いないと思ったんだけどな。ええと」


 どうやらイシカワは戦闘で見たわずかな動きだけでルッタのソレが風見一樹のものに酷似していると看破したようである。その観察眼の高さに呆れつつも、ルッタは誤魔化すのは無理だなと思い、頷いた。


「別に積極的に隠してるわけじゃないからいいんだけどね。でも、そんなのが分かるのはカイゼル石川ぐらいなもんでしょ。風見一樹には無理だったと思うよ」


 ルッタの知るカイゼル石川というアサルトセルのプレイヤーは近接戦闘だけで世界ランキング最高八十二位にまで昇り詰めた男だ。銃撃戦メインのアサルトセルにおいても一撃必殺の近接メインビルド勢は一定数存在するが、その戦術は頑張って当たれば勝ちという感じの博打に近く、決してメインストリームにはなり得ないもののはずだった。で、あるにもかかわらず、カイゼル石川が世界ランカーになれたのは彼の持つ類稀なる観察眼故だ。

 なお、それにプラスして事前に対戦相手の研究を入念に行い、相手の癖や弱点を狙ってパイルバンカーで突きまくる戦法を取っていたため、一部のプレイヤーには蛇蝎の如く嫌われてもいたようである。


「否定はしないんだな?」

「分かってる相手に嘘ついても仕方ないでしょ。大体隠してると思ってるんなら聞かなきゃいいのに」

「そりゃこっちでリア友に再会したんだぞ。それも死んでいたと思ってた相手と」

「いや、友って呼べるほどの付き合いじゃなかったと思うんだけど」


 風見一樹とカイゼル石川の関係はオフ会や大会で数度か戦ったり、軽く挨拶を交わしたことがある程度で……友と呼び合える間柄ではなかったはずであるが、ルッタとイシカワでは認識に差があるようだった。


「でもその姿からして転生者ってわけか。俺やジンナイみたいな転移者がいるならそういうのもアリなんだろうが……ジンナイはお前がカザミーだって知らなかったよな?」

「一応言っておくけどね。俺はルッタ・レゾンだよ。この世界で生まれて、この世界で育った。必要があって風見一樹の記憶を掘り起こしたけど、彼とイコールってわけじゃない」


 ルッタは突き放して言う。


「ええと、そういうロールプレイ?」

「……違うから」


 見当違いのイシカワの質問にルッタは肩をすくめて否と返した。


「でも前世はカザミーなんだよな?」

「多分ね。昔、死にそうになった時にアーマーダイバーを操作しようとして、多分今世ではそういう知識がなかったからアーマーダイバーに類似したものを操作していた風見一樹の記憶を掘り起こしたんだと思う」

「うーん。掘り起こせたってことは前世ではあるんだろ? それでも同じ人物じゃないのか?」

「記憶はある。けど、結び付いてはいない。俺は風見一樹っていう人物の歴史に詳しいだけの別人だよ。残念ながらね」


 必要だったのは操縦技術だけ。悪夢もセットだった風見一樹の過去の記憶はルッタにとっては余分なものだった。

 コーシローに話す気になれない理由もそれだ。必要だからその記憶を手に入れはしたが、ルッタにとって風見一樹はあくまで別人だ。同一視されるのは『気持ちが悪い』。そこに転生者と転移者の明確なアイデンティティの差がある。その言葉にイシカワは少しだけ考え込んでからゆっくりと頷いた。


「オーケー、承知した。お前はルッタ・レゾン。カザミーじゃない。オーケー?」

「オーケーだよイシカワさん」


 イシカワの言葉にルッタが是と返した。

 イシカワも素直に飲み込めたわけではないが、ルッタの感じている気持ち悪さもなんとなくは理解できた。何よりも風見一樹とは深い付き合いがあったわけではなく、十年以上経った今となっては例え風見一樹本人が相手だったとしても関係性としてはリセットしたようなものだと考えても良かろうと。


(まあ、引退したブイツーバーらしい新規垢が出てきた時に「あなた※※※ですよね?」とか聞いちゃうのは基本NG行為だしなぁ。そんな感じなんだろうな)


 実のところ微妙に理解の及んでいないカイゼル・イシカワではあったが、ともあれ風見一樹ではなく、ルッタ・レゾンというひとりのアーマーダイバー乗りとの新しい関係を築くことを彼は選択したようであった。

 ルッタくんが先天的に風見一樹の記憶を持っていたら違ったんでしょうが、ルッタ・レゾンとしての自我がすでに形成された後に記憶を得たために彼の中で風見一樹の記憶は自分と結びついていない、オプションパーツに近い扱いとなっています。

 大元の剣術を覚えた人の記憶付きで剣術スキルを入手したみたいな感じですかね。悪夢とセットだったのも良くなかった。

 ちなみにスキルの習熟度はすでにMAXで新規ツリーが解放済みですね。ロボクス操縦【極】とかジャッキー流剣術とか。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ詳しい記憶があれば本人というならマニアやらストーカーさんも本人のうちになってしまうからな。既に確立した自我があるなら、物凄く詳細な他人の記録を見たみたいなもんだよな。 人によっては自我の…
[一言] 前世は別人ってあれやな 前世が紫式部で文学の才能を思い出した野郎が本出版して その本読んで、野郎を紫式部と確信した、前世が紫式部の自称彼氏なホモォに言い寄られるノーマル野郎。 みたいなもんや…
[一言] 生まれた時から転生の自覚あるでもなく、なんらかの原因によってルッタの魂が消滅したところに風見一樹の魂が入ったってもんでもないですしねえ
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