015 弾丸と大盾
『う、うわぁっ』
タイフーン号と対峙して島に背を向けていたゴーラ武天領軍の機体の一機が炎上しながら竜雲海へと沈んでいく。それは戦場に現れたブルーバレットが放った最初の一撃によるものだった。
「まずは一機」
ルッタが冷静にそう口にする。
背後から撃たれたのだから乗り手はおそらく死んではいないだろう。コクピットの後部には機導核を覆うシールドボックスが設置されており、それはアーマーダイバーの中で最も強固な部分なのだ。とはいえ、そこを攻撃されれば機導核は無事でも機体との接続部分は破壊されるし、当然アーマーダイバーも動かなくなる。戦闘不能になったのは間違いなかった。
『おい、アレは報告のあった修理屋のヤツじゃないのか?』
『いつの間に……もう来たのか』
『畜生、ランドが落ちたぞ。索敵、何やってた?』
『気を付けろ。ヤツにはすでに五機がやられてる』
アーマーダイバーは基本的には全て同じ所属として認識されており、通信は同一回線のみで、聞こえる聞こえないは発信距離による強弱ぐらいでしか調整できない。そのためゴーラ武天領軍の反応はルッタにも聞こえており、テオドール修理店での戦闘はすでに報告が入っているようだと理解した。
「俺があっちで倒したのは四機なんだけど、リリお姉ちゃんのタレットドローンの戦果も加算されてる? スコアは正確にして欲しいんだけどなぁ」
そんなことをうそぶきながらルッタは機体を竜雲海に着雲させ、フライフェザーからリフレクトフィールドを発生させると流れるように雲の上を移動していく。
『撃て撃てぇえ』
「おおっと」
ルッタは相手の動きを見ながら銃撃を避けつつ、自身も魔導銃を撃っていく。
「なるほどなるほど。流石に簡単に当たってくれる間抜けはいないと。けどさー」
一発二発と避けた敵機体が三発目で脚部をかすり、わずかに動きが止まったところで四発目の直撃を受けて沈んでいった。
「数撃ちゃ当たるね」
『こいつは……くっ』
「おっと、アンタ弾切れかぁあ!?」
タイフーン号への攻撃の途中からのブルーバレットの奇襲。予備マガジンの魔鋼弾の補充は完了しているが、マガジン交換の時間をルッタは見逃さない。急加速でゴーラ武天領軍のフォーコンタイプへと接近すると魔導剣を抜いて敵機体の上半身と下半身が分断される。
「二機目! 続けて」
『な!? ワイヤーアンカー?』
さらには近づいてきたフォーコンタイプの足にブルーバレットは左腕の甲から射出したワイヤーアンカーを絡みつかせると、ブルーバレットのフライフェザーを停止させて自身の機体を竜雲海に沈み込ませた。
『潜った? どういうつもりで? ぐ、機体が沈……む!?』
ワイヤーアンカーで繋がったブルーバレットの重みによってフォーコンタイプの機体も竜雲海へと沈んでいく。そしてブルーバレットはそれにぶら下がる形で竜雲海内を弧を描いて疾走し、直後にフライフェザーを最大出力で発動させるとそばにいた別の機体の真下から飛び出して勢いのままに魔導剣で一気に斬り裂いた。
『こいつッ』
『下から飛び出して上空に? うわぁああああ』
さらには飛び出た勢いで上空にまで飛んだブルーバレットがワイヤーアンカーで足を引っ掛けた機体へと真上から魔導銃を撃ち放って撃破する。
「三、四機と。いい調子だ」
『撃て。滞空している今なら回避もし辛いはずだ』
「んなことないんだけどね」
フライフェザーの出力を調整しながらルッタは空中で変則機動を見せて銃弾を躱すと、そのまま岩山の陰に隠れながらマガジンを交換するのであった。
『嘘だろ。瞬く間に四機やられたぞ』
『風の機師団にこんなヤツいねえはずだろ。クソッタレ』
動揺するゴーラ武天領軍を尻目にルッタは岩場の影で一息ついた。
汗は大量に流れ出ており、また激しい挙動によりコクピット内で全身を叩きつけられているようなダメージを受け続けていた。それでも脳内に分泌され続けるアドレナリンがまだルッタの意識をつなぎ止めている。
「アーマーダイバーは残り五機か。けど、本番は」
バサァッと音がしたのと同時にブルーバレットが影に包まれた。
「来たか!?」
ルッタがとっさにその場を離れるとドンッという音ともに巨大な鉄板のようなものが一秒前にブルーバレットがいた場所に落ちてきた。さらにはもう一枚、山を飛び越えてきたものを見てルッタが眉をひそめる。
「鬼瓦みたいな盾?」
先ほど上から落ちてきた何かと同じものなのだろう。鬼のような形相が刻まれた大盾らしきものがフライフェザーを広げて突撃してきたのだ。
「こっちもかよ」
ルッタは即座に大盾の端を魔導銃で撃ってわずかに動きを阻害し、そのままバランスを崩しながら近付いてきた大盾を避けた。
『なんだぁ、テメェ。避けてんじゃねえぞマダラ色ぉ!』
そして二枚目のフライフェザーの生えた盾も避けて距離をとったルッタに怒りの声が届けられる。その声の方へと視線を向けると、山の上にフォーコンタイプではない機体が立っているのが見えた。
「あれがオリジン……ダイバー?」
ルッタの視界に入った機体の姿はフォーコンタイプよりも重厚な装甲に包まれ、左右の脚部それぞれから二枚づつ、二対のフライフェザーの生えた機体であった。
『そうさ。こいつはオリジンダイバー『ノワイエ』。そんでテメェが避けたのは俺のシールドドローン『ゲンブ』だ』
たった今ブルーバレットを襲ってきた翼の生えた大盾二枚が浮遊しながらノワイエの左右に移動し、その肩部に接続される。
『そして俺様の名はゴーラ武天領軍の魔人将ラガス。選ばれし存在『増魔人』のラガス・ヴェルーマンだ!』