014 エネミーオブオリジンダイバー
『サングリエ艦級が二隻にアーマーダイバーが十機。こりゃぁ不味いわね』
爆発音に向かって近付いたルッタたちは岩場の陰に隠れながら音の発信源のそばにたどり着いた。そして彼らがその場で目撃したのは戦艦二隻と十機のアーマーダイバーに囲まれて攻撃を受けているタイフーン号の姿であった。
「あの爆発の中心にいるのがタイフーン号? ちょっと、アレもう駄目なんじゃないの?」
ルッタがそう口にするのも無理はない。戦闘用の雲海船の防御力は高いが、当然無敵というわけではないし、民間用と軍用の差も無視はできない。あそこまで集中的に撃たれれば大破し沈むはずだとルッタは考えたのだが、シーリスは『まだ大丈夫よ』と言葉を返した。
『ジェットの旦那……ウチのもうひとりのアーマーダイバー乗りの機体が装備しているシールドドローン『ビットスケイル』っていう防衛用魔導兵装があってね。そいつが稼働している限りはそう簡単には落ちない。それにだからこそ敵もまだ攻撃している……はずよ』
そう返したシーリスだが、その表情に余裕はなかった。
さすがに十機のアーマーダイバーの攻撃を受けて問題がないはずもなく、いつ防御が抜かれてもおかしくはない状況なのは間違いないのだ。
『ルッタ。ロケットランチャーの弾数は増やせそう?』
「いや、二発目を構築する前に船が落ちそうだし、残弾一でやるしかないね」
『うーん』
ルッタの返答にリリが唸る。
『リリ、どうするの? ジェットもさすがに保たない。かと言って』
如何にルッタの技量が高いとはいえ、あの戦力の前に突っ込ませるのは無謀に過ぎるとシーリスは考えたが、続けてリリの口から出た言葉はさらに絶望的なものだった。
『うん、あの中にオリジンダイバーが一機いる。奥にいる機体。今のルッタの装備だとロケットランチャーの魔導砲弾クラスの攻撃がないと厳しいかも?』
『オリジン……よりにもよって。いやリリを捕まえるなら当然ではあるか』
ふたりのやり取りにルッタが眉をひそめる。
「あのさ。オリジンダイバーってアーマーダイバーの元祖みたいなヤツだよね? 確か」
オリジンダイバーは八天領で生産されているアーマーダイバーとは違い、遺跡で発掘されることがある特別な機体だ。各天領でも所持しているところは少なく、アーマーダイバーに比べて圧倒的な性能を持っているとルッタは聞いていた。
『そうよ。アーマーダイバーと比べて秀でている面はいくつもあるけど、分かりやすいところだと出力は量産機の二倍以上あって、火力も機動力も防御力も当然上で、専用の特殊兵装も持ってるの。戦場で会ったらともかく逃げろって言われる類の相手よ』
「なるほど。そいつは」
面白そうだ……そう口にするのをルッタは寸前で止めた。彼女らの仲間が攻撃をされている現状で、そんなことを口にするのは流石に不謹慎だと自制したのだ。けれども笑みだけはどうしようもなく止められない。
そんなルッタの変化に気づかぬままシーリスが口を開く。
『相手がオリジンダイバーだろうがリリのフレーヌなら倒せる。けど……』
「フレーヌってリリさんの機体?」
『そう。オリジンダイバーのフレーヌ。あとルッタ、お姉ちゃんで』
「あ、はい」
ルッタとリリのやり取りの途中で、これまでとは違った爆発音がタイフーン号から響いた。その音を聞いてシーリスが目を見開く。
『不味い。ビットのひとつがやられたわ』
「なら俺が行きます。ふたりは隙が見えたらタイフーン号に乗り込んでください」
『ちょっとルッタ!?』
シーリスが止める声も聞かずにルッタは動き出した。
(これを逃すとオリジンダイバーと戦える機会なんてそうそうなさそうだからなぁ)
そう心の中で呟くルッタの笑みは肉食獣のソレを思い浮かべさせるものだった。何しろ相手は高難易度のレアエネミーだ。そんな美味しそうな獲物を逃す道理はない。
(問題は……体がどれくらい保つかってところか)
アームグリップを握る手がわずかに震えているのをルッタは理解している。自分の体がもうボロボロだということも。アドレナリンがキマって今はどうにかなっているが、小さな体では戦闘の負荷に耐えきれない。タイムリミットは迫っていた。
(これが終わったら鍛えるかな)
ルッタも実戦を甘く見ていたつもりはない。けれども子供であることを差し引いても実際のロボットの操縦には体力が必要なのを今回の戦闘で痛感した。
「もっとも、それはこの戦いが終わった後の話だ。今はあいつらに集中しないとな」
そしてブルーバレットが隠れていた大岩を飛び越え、戦場へと躍り出たのであった。