024 共闘。そして領都へ
ブルーバレットが天領内を駆けていく。
道中にふたつ町を通り過ぎた。港町ほど飛獣の数は多くなかったが、天領軍は基本的に島の外周に集中して戦力が配置されているために内側の護りは薄くなっており、被害もかなり出ているようだった。
平時であれば島に上がった飛獣は魔力濃度が薄いために飛ぶことができなくなるのだが、イータークラウドの影響下においては自由に飛び回ることが可能だ。地を這う相手と空を飛ぶ相手では防衛の難易度は文字通りに天と地ほど違うのである。
(それでもアーマーダイバーの騎士団を中心に天領軍もよく立ち回ってはいる。不意打ちみたいな状況だってのにね)
ジアード天領の軍の練度はそれなりに高いことはルッタも道中の動きを見て理解はできている。けれども問題は天領内の飛獣の対処ができていても元凶を潰さぬ限り、事態は終息しないということだった。
「だからさっさとガルダスティングレーを倒したいんだけどねえ」
ルッタがぼやきながらガトリングガンを撃ち鳴らし、飛んでいたミストスティングレーの群れを落としていく。
(残弾200切ったか。まあ、もった方だよね)
牙剣の切れ味が予想以上に鋭くて低ランクの飛獣相手にも通用したため、飛獣が密集していた場合にはガトリングガンで掃討し、一二体の場合は牙剣で仕留めていたので弾丸の消費は予想よりも少なく済んでいた。また牙剣も数度魔力刃を発生させたが、それは戦闘に用いるためではなく、魔力刃を形成することで刃についた血糊を浮かして落とす目的で使われていた。
とはいえ、先に進むほどに敵の数は増えるばかりだ。
ガトリングガンの総弾数は千発。召喚弾ではあるがバケツマガジンが自動で生成し、全弾補充するのには丸一日以上かかる。そのため、おかわりはできないが、すでにソメイロ山の麓の領都までは目前。ガルダスティングレー相手にはメインで使うつもりはなかったため、辿り着くまでもってくれれば良いとルッタは考えていた。そしてさらに先へと進んでいくと領都間近でも戦闘が行われているのが見えた。
「アレは天領軍じゃないな? となればハンターか」
見れば十機ほどのアーマーダイバーが領都に迫る飛獣と相対しているようだった。先行して増援に向かったハンタークランの話は聞いていたので、それがそのクランだろうとルッタは考える。
(戦っている相手はミストスティングレーじゃないな。その上位種プラズマスティングレーか)
ガルダスティングレーの眷属であるミストスティングレーは主と同じく、少量ではあるがイータークラウドを発生させ広げる役割を担っている。戦闘は体当たりと尾の針を用いたもののみとなり、戦闘力はそれほどでもない。対して同じ眷属でもミストスティングレーの上位種であるプラズマスティングレーは違う。
『ビリビリが来るぞ』
『畜生。弾も当たらねえってのにどうしろってんだ』
プラズマスティングレーの一体が放電し、そして緑の稲妻が宙を駆けてアーマーダイバーの一機に直撃した。
『ギャァアアア』
『畜生。こんなツエー飛獣の群れなんて聞いてねえぞ』
プラズマスティングレーはルッタが読んだ報告書によればロブスタリアと同じランクC飛獣だ。ロブスタリアのような甲殻はないが、緑色の雷を用いた遠距離攻撃とシールドを発生させる難敵である。
「アレがこの島のランクCクラン……相手は同じランクCとはいえ状況は厳しいみたいだね」
一般的にハンタークランは同じランクの飛獣までであれば問題なく対処することが可能だと言われている。実際には実績如何で変動するために必ずしも一致するわけではないのだが、それでもそれなりに現実に則した評価ではあった。
けれども飛獣の多くは機動力を生かして特攻する種が多く、遠距離攻撃持ちや特殊防御持ちは少ない。だからそうした相手に慣れていないクランは場合によっては苦戦を強いられることもある。
そしてルッタの見る限り、戦っているクランは相手の情報を知らず、対応に苦慮しているようだった。
「ここは任せて通り過ぎる? いや、ガルダスティングレーと戦っている時に後ろを取られても困るか」
見る限り、ルッタと違って対象の飛獣の弱点を彼らは知らないようであった。それはガルダスティングレーとその眷属はこの海域に本来いない飛獣であり、ハンターギルドが飛獣の情報を見つけた時にはもう彼らは出発していたためであった。
「ならさっさと片付ける!」
存外に苦戦中のハンターたちを見てルッタは戦闘に参戦することを決めて、フットペダルを踏み込んだ。そして接近しながら一体のプラズマスティングレーへとガトリングガンを集中して撃ち続けると、対象の体を覆う緑色の光が放電して銃弾を弾いていくのが見えた。
『増援か?』
『バッカ。銃が通用しないんだよ』
ハンターからの声にルッタは返事をせずに再度撃つと、状況が変化した。
『おい、話を……うん? 当たった!?』
「あの放電バリアは削れるんだよ。そりゃっと」
パンッと全身を覆う雷が弾かれるように消えるとそこにブルーバレットが近づいて地面に向かって蹴り落とした。
『おい。落としてくれたぞ。仕留めろ』
「コツは掴んだ。このまま崩していくよ」
『おう、頼んだ。お前ら、俺らも銃撃を集中。一体一体確実に潰せ』
リーダーらしき男の声に全体が「「おおおーー!」」と声が上がり、一対一で仕掛けていた状況から一対多数での集中攻撃へと切り替える。
そうしている間にもルッタも一体、二体と落とし、それからその場の群れをすべて仕留めるとリーダー機らしい機体へと接近した。
「こちらランクBクラン風の機師団のルッタ・レゾン。そっちは?」
『ああ、風の……なるほど。アンタが鮫殺しか。そうか。俺はランクCクランラムダッシュのクランリーダーのアラン・バストールだ。天領軍の応援にと来たんだがな。見ての通り、ここで足止めを喰らってる。チッ、また来たか』
アランが舌打ちする。島の外側から接近するミストスティングレーとプラズマスティングレーの群れが迫ってくるのが見えたのだ。
「悪いけどここは任せてもいいかな? 流石にアレがここを越えて背中を狙われたら天領軍もやばいと思うし」
ルッタの言葉にアランは『分かった』と返す。自分達のクランがランクA飛獣を相手にできるとは思えなかったし、ここで防衛することが自分達が一番貢献できる形だろうというのはアランにも分かっていた。
『任せな鮫殺し。だからあんたはさっさと敵の親玉を片付けてくれよ。そんで終わったら一緒に酒でも飲もうぜ』
「いや、未成年に飲酒を勧めないでよね」
『おい、マジでガキなのかよ』
『声は確かに子供のようだが』
クランの他のメンバーから驚きの声が漏れ、アランが含み笑いを漏らして頷いた。
『クックック、それじゃあミルクでも奢るから付き合えよ鮫殺し』
「あいよ。保護者同伴だろうけどね」
『子供らしくて結構だ。ここは俺たちに任せてさっさと行きな』
「ヒュウ、カッコいいこというねアランさん。なら頼んだ。デカいだけのエイなんざサクッと狩ってすぐに霧を晴らしてやるよ」
そう言ってルッタは彼らに背を向け、機体を加速させる。
(うわ、なんで戦ってたのが騎士団じゃないかと思えば)
道中に騎士団のものらしきアーマーダイバーの残骸と飛獣の亡骸が無数に転がっているのが見えた。
それは領都に近づくごとに増え、ランクA飛獣ガルダスティングレーたちとジアード天領軍が激戦を繰り広げていたのだろうとルッタも理解できた。
(天領軍が全滅する前に間に合ってくれよ)
そう願いながらルッタはブルーバレットを先へと進ませ、ついには領都へと辿り着く。そして激しい戦闘音が響く街の中心へと到着したルッタが目にしたのは……