021 量VS質
「艦長、コーシローから通信が届いた。ルッタとは無事合流。予定通りにブルーバレットに乗ってガルダスティングレー討伐に向かったそうです」
「そうか、分かった。こっちもすぐに合流したいところなんだがな」
副長のラニーの言葉にそう返しながらギアは艦長席からブリッジの外へと視線を向ける。現在タイフーン号はジアート天領の沿岸に留まり、多数の飛獣たちを相手に激しい戦闘を継続していた。それは戦闘型とはいえ、雲海船一隻のみの戦力では普通であれば抗せるはずもない戦力差。けれども風の機師団は規模の小ささからランクBではあるが、実力だけでいえばランクAに届くと称される実力派クランだ。それ故に今なお数の差に対して質の差で拮抗し続けていた。
「小判鮫か。言葉通りの連中だな。まったく」
そして彼らが現在対峙しているのはオーバルシャークと呼ばれるランクD飛獣だ。
どちらかといえばシュモクザメに近い外見のその飛獣が小判鮫と呼ばれるようになった理由は一目瞭然で、小判のような金属化した頭部を持っているが故であった。その額を武器に高速で突撃する攻撃を得意とした、ここに来る前に遭遇したキャノンボールクラムドサウルスに近い戦闘スタイルの飛獣なのだ。そのオーバルシャークの群れが大量にタイフーン号に仕掛けてきている。魔導砲がひっきりなしに放たれているが、なかなかに命中はしない。魔導砲はアーマーダイバーに比べて取り回しが悪く、その上にオーバルシャークの速度ではなおさらに当てるのは難しい。
『シーリス、突っ込みすぎるな。ラウラ、お前は砲台だ。撃つことだけに集中しろ』
『あいよジェットの旦那。ラウラもきばりな』
『ウチ整備士なんだけど。うわぁあ、また来た!?』
もっともタイフーン号に近付くオーバルシャークを相手取っているのは船体に添え付けられている魔導砲台だけではない。乱戦とならぬようにレッドアラームに乗るシーリスはタイフーン号と距離をとりながらも確実にオーバルシャークを撃ち落とし、またこぼした相手は甲板の上で構えているフォーコンタイプが迎撃していた。
『当たれ当たれ当たれぇえ』
このフォーコンタイプは今は船にいないメイサのために用意された機体だが、火力不足を補うために今はレッドアラートの専属整備士であるラウラが操縦していた。
元々乗り手上がりの整備士であるラウラだが本人曰く「ウチ雑魚っすよ」とのことで、ブランクもあって確かに危なっかしい操作での戦闘であった。
さらにそれらを抜けてタイフーン号に突撃するオーバルシャークはジェットの乗るツェットがシールドドローンで叩き落とすことで守り切っている。
とはいえ、本来であればジェットに出番があるということはタイフーン号まで接近を許してしまっているということであり、あまりよろしい状況ではない。
「やはりルッタとリリがいないのが辛いな。拡散ドラグーン砲の二射目は?」
「準備はできていますが、連中存外に頭がいい。船尾側に近づこうとしません」
その返しにギアが舌打ちした。
遺跡で手に入れた高出力船導核がタイフーン号のコアとなったため、元の船導核は拡散ドラグーン砲用へと割り当てられている。そのため現在では戦闘中に二発まで撃てるようになっているのだが、すでに一度撃って群れに穴を開けた後は警戒されて二射目が撃てていないのだ。拡散ドラグーン砲の攻撃範囲は広いとはいえ、敵が射線に入らなければ撃っても当然意味はない。
(拮抗している状況が続くのはあまり良い状況じゃあないな。均衡を崩すためには)
「仕方ない。クルー全員に姿勢固定を通達。やるぞラニー」
「マジですかい。了解。あー全クルーに注ぐ。艦長がアトラクションクルーズを御所望だ。総員、身体を固定。ラウラは頃合いを見て甲板から飛べ」
『は? りょ、了解』
ラウラの返事に頷き、それからラニーが艦内用の通信でやり取りを終えるとギアを見た。
「クルーの点呼完了。行けます」
「良し、面舵いっぱい!」
「アイサー艦長。全員衝撃に備えろよ」
ギアとラニーのやり取りと共にタイフーン号が右に急旋回をし始める。そのことに気付いたオーバルシャークたちが激突せぬよう距離をとるが、船体の回転と共に船尾も動き、それは固まっていたオーバルシャークの群れに向けられた。
「撃てぇぇぇええ!」
そして横薙ぎに拡散ドラグーン砲が斉射され、十を越えるオーバルシャークが直撃を喰らって落ちていき、それ以上の数の個体がダメージを受けて悲鳴をあげた。
「よっしゃ! って、あ!?」
ラニーが握り拳を振り上げて喜ぶが、甲板から飛び上がり損ねたラウラが振り落とされている姿が見えた。
その直後にラウラの機体がシーリスのレッドアラームに受け止められていたのを見てブリッジの面々は安堵の息を吐いた。
「これで数は減っただろ。投げ出されたヤツがいないか再点呼急がせろ。そんでさっさと残りを片付けるぞ」
「アイサー」
これで数の差はある程度解消され、質で勝る風の機師団有利に戦場の天秤は傾いた。となれば戦いの行方はこことは別、双方の最大戦力同士の結果によって決まることとなるだろう。そう予感しながらギアが離れた場所で行われている戦いに視線を向ける。
「それにしても……ここで出てくるか」
タイフーン号より離れた緑の霧の中で舞うように飛んでいるフレーヌの姿が見える。そしてそれを追うように二体の巨大な影が通り過ぎ、また両者の間を魔力光が幾度となく輝いていることも。
「シャークケルベロス、しかも二体とはな」