020 移籍しました
「試運転ねえ。ま、渡りに船っちゃーそうなんだけどさぁ」
そんなことを口にしながらルッタは先ほど渡された飛獣の報告書に目を通す。
(イータークラウドを発生させるランクAの巨大飛獣ガルダスティングレー。その眷属であり、イータークラウドを発生させるための補助役であるミストスティングレーと戦闘役となるプラズマスティングレーの三種類がいて、ガルダとプラズマは飛び道具ありか。厄介だなぁ。大体、なんで西方に生息してるはずの飛獣がこの島を襲ってんだよ)
この天領があるのはアーマン大陸内でも南方に位置し、報告書によればガルダスティングレーは西方で見かける飛獣であるとのことだった。一方で今も港町にいるであろうフライリザードは近隣に普通に生息している飛獣だ。
(ともあれ、まずは牙剣がちゃんと機体と繋がって動くかってことなんだけど)
ブルーバレットがガレージから出て施設前へと足を進ませ、崩れ落ちたロボクスの前に立った。
そして力尽きた機体から黒牙剣と白牙剣を回収すると、そこに魔力を流して何度か振って動作を確かめる。
(うん。問題ない。魔力は正常に流れて魔力刃を形成しているし、魔鋼砲弾の生成のための魔力供給プロセスも正常値で行われているな)
昨日よりアマナイと組み上げた双剣は設計図通りに完成しているが、正しく動作するかは実際に確認するまで分からない。けれども黒牙剣も白牙剣も正しくブルーバレットと繋がり、魔力刃も正常に発生している。動作に問題はないようだった。
それからルッタは双剣をジャッキー流剣術の動きに沿わせて振り、また合体機構でふたつの剣をひとつの大剣へと変形させて、そこからもまるで剣舞のように振るってチェックを行う。
それを見た周囲が驚きの視線を向けている中、再び双剣へと分離を行い、左右の腰部のマウントへと接続させる。
(まだ魔鋼砲弾が生成されていないからチェーンソーモードはぶっつけ本番になるけど、組み込んだ可変機構自体に問題はない。これなら行けるな)
『どうだルッタ?』
ルッタがようやく牙剣に確信を持てたタイミングで施設の方から拡声器でコーシローの声が聞こえてきた。
天領内では基本的に無線通信は天領軍のみが許されている。それは無線通信を行うと魔力が乱れて魔導具の動作が不安定になるためで、現在は緊急事態により必要に応じて無線を行う許可自体は出ているが、避難誘導にも障害が発生するかもしれないことを考えれば現状の島上ではこうした音声での対話がメインとなっていた。
『ブルーバレットもフルメンテとはいかないが問題なく動いているだろ』
そのコーシローの問いにルッタも拡声モードで周りにも聞こえる音量で言葉を返す。
「うん、バッチリだよコーシローさん。ガトリングガンを短時間でよくバックパックウェポンに組めたね」
元々ブルーバレットのバックパックウェポンはショルダーカノンで固定されていたが、現在のバックパックの左にはバケツマガジンが、右部にはガトリングガンが備え付けられていた。
そしてルッタがテンキーもどきデバイスを操作するとガコンという音と共にバックパックとガトリングガンを繋いでいるタクティカルアームが動き出し、それは右腕の下に回り込むようにガトリングガンの銃口を正面へと向ける。
『ま、結局のところ正式にバックパックウェポンと分類されてるのはその第三の腕であるタクティカルアームなんだけどな。動作を記録させてテンキーもどきデバイスで操作って形ならそう難しくはなかったさ』
「だとしても助かるよ。ガトリングガンをうまく使えばガルダスティングレーのところまでに魔鋼砲弾を……多分二発分は造れると思う」
『その分、機動力はフォーコンタイプと同等にまで落ちる。その点は気を付けろよ』
「分かってるよ」
ガトリングガンの重量はそこそこあり、現状のブルーバレットはコーシローの言葉の通り、重装型のフォーコンタイプに近いところまで機動力が落ちていた。もちろん装甲の追加はないので防御力は据え置きである。
けれども、そうした前提があったとしても有り余るメリットがガトリングガンには存在していた。通常、魔導銃というのはアーマーダイバーが装備しているだけで、魔力を消費する。召喚弾の生成に、召喚弾の顕現維持、また戦闘状態自体の維持にも魔力が発生し、それらは必要コストという形で機体構成の制限となっているのだ。けれどもガトリングガンは違う。
(ガトリングガンは機体にではなく、バケツマガジンそのものが召喚主として召喚弾をキープする機構がある。だから重量こそあっても必要コストは無視できる、ある意味ではチート武器と言えるかもね。それに……)
ルッタが注目するのはバックパックとガトリングガンを繋ぐ第三の腕とも言われるバックパックウェポン『タクティカルアーム』だ。
(こいつはマニュアル操作が難しくて人気のないバックパックウェポンだったけど、テンキーもどきデバイスがあれば制御もしやすいし応用も効きやすい。こいつの装備は偶然だったけど、いい感じの構成になってきたじゃない)
そんなことを考えているルッタの耳に施設の門外に待機していたアーマーダイバー乗りの声が入ってきた。
『おい、また来たぞ』
『フライリザードだ。さっきの戦闘の血の臭いで集まってきやがった』
その言葉の通り、見えている範囲だけでも複数の飛獣の姿が近づいてきているのがブルーバレットの中からでも分かった。まだ施設の外で待機していた住人たちからそれを見て悲鳴があがった。
「ふーん。まあ、行き掛けの駄賃としてはいい数だね。アンはここからはコーシローさんの護衛を頼むよ。その後はリリ姉の指示に従ってね」
ルッタの言葉にコーシローのそばにいたアンが前足を上げて了承のポーズを決める。
『……ルッタ』
コーシローからも緊張した声が漏れた。風の機師団の一員であっても生身では飛獣に勝てない。そばにアンが控えていても戦えないコーシローにとっては低ランク飛獣も十分に恐怖の対象だ。けれども今のルッタにとってソレらは機体チェックの延長線上でしかない。
「そんじゃあ行ってくるよ。試し撃ちついでにアレもらうね」
そしてルッタがフットペダルを踏み、フライフェザーが起動したブルーバレットが浮かび上がるとホバリングしながらガトリングガンを構えて施設外へと飛び出し……
ズガガガガガガガガガ
呆気に取られる面々を尻目にけたたましい音を立てながら迫るトカゲの群れを蹂躙し、瞬く間に壊滅させるとそのまま島の中心であるソメイロ山の方へ向かって飛んでいったのであった。
メイン武装としては威力と取り回しが難しいため、バックパックウェポンに移籍となったガトリングガンさん。
構造的にはヴェ◼︎バー的なギミック、ヴィジュアル的にはレオパルド◼︎ヴィンチの武装的な感じで。