018 英雄の凱旋
「うーん。そろそろ来てもいいはずなんだけどな」
ジアード天領のハンターギルド施設前は現在要塞のようになっていおり、ハンターやギルド所属のアーマーダイバーが立ち並び、近付く飛獣の対処を行なっていた。
幸いというべきか港町を襲撃してきた中でも高ランクの飛獣の群れはその場に居合わせた風の機師団が引き受けてこの場を離れたために現状の港町にいる飛獣の多くは低ランクのフライリザードであり、ハンターギルドの施設はそれらから住人を守るための避難所として上手く機能できていた。
そんな中でコーシローは施設の入り口前でひとりルッタを待ち続けていたのだが、施設内から職員のひとりが慌てて近づいてくるのが見えた。
「ジンナイさん。そちらの乗り手、現在飛獣の群れとぶつかってるらしいです」
「は、マジですか?」
ギルド職員からの言葉にコーシローが目を丸くする。
風の機師団がこの場を去った今、コーシローがこの場にいるのはアキハバラオー最強レアロボ武器商店にいるルッタにブルーバレットを引き渡すためだった。そのためにコーシローはタイフーン号とは分かれてブルーバレットに乗ってハンターギルドまで来ていたのだ。
コーシローとしては店まで直接届けたいという思いはあったが、前述したようにルッタ用に調整された今のブルーバレットはあまりにもピーキーで、一緒に調整しているコーシローであっても非戦闘モードで動かすのがやっとというシロモノとなっている。そのため、低ランクの飛獣であっても倒せる自信のなかったコーシローは戦闘中のタイフーン号がここに通りかかった時に降ろしてもらい、アマナイに電話をして、こちらまで来てもらうことにしたのである。
そしてコーシローの意図通りであればルッタはアマナイと共にロボクスで飛獣を避けながらこちらに向かっているはずだったのだが……
「ウチの乗り手はどうしてそんな状況になってるんだよ?」
「それがこちらに向かってるのは確かなんですが道中でウチの住人を助け回っているらしくて、ホラ人も増えれば当然飛獣も集まるでしょ」
「そりゃそうだ。道理だな」
美味しいご飯が大量に揃っているのだ。飛獣が集まらないわけがない。けれどもルッタの乗っているのは非戦闘用のロボクスだ。コーシローが眉をひそめていると職員が妙なことを口にし始めた。
「いやはや戦果も凄まじいものですな。このまま飛獣を倒していただければありがたいのですが」
「馬鹿言うなよな。あいつが乗ってんのはロボクスなんだよ。ただの作業用で飛獣を相手になんてできるもんじゃないんだ」
「え? 嘘でしょう。だって通信内容が確かならもう三十体は仕留めてますよ」
「は? 嘘だろ。何してんだアイツ!?」
コーシローと職員の双方が目を丸くした。今のルッタの正解は極力飛獣との戦闘を避けてハンターギルドの施設まで到着することのはずだ。三十体となれば今港町にいるアーマーダイバー乗り全員をぶっちぎってトップの討伐数である。
(なのになんで低ランクとはいえ、飛獣相手に無双してるんだ? そもそもどうやって?)
コーシローが混乱するのも無理はない。ロボクスは有線で魔力供給することで動く機体だが出力は低く、対飛獣用の装備に魔力を送ることもできない。一応馬力だけは多少あるのだが鈍重で、出力不足で魔導銃も魔導剣も使えないシロモノなのだ。
だから『竜の牙でできた剣で戦う』という要素が頭から抜け落ちていたコーシローはその答えに辿り着けない。もっとも答えの方はもう目前まで迫ってきていた。そして突如として銃声が響き渡ったのだった。
「飛獣が攻めてきたのか?」
「そのようで……え、はい。なるほど」
話している途中で、職員が別の職員が渡してきたメモを見て頷いた。
「なんだ?」
「どうやら件のロボクスが囮役となって集めた飛獣をウチのアーマーダイバーたちでまとめて撃って仕留めたそうです。十体のフライリザードを殲滅。大金星ですね」
「な、なるほど……ともかく、つまり来たんだなルッタは」
なんと言って良いのかと思うコーシローの耳に聞きなれた少年の声が響いてきた。
『ふぅ。疲れた。あれ、コーシローさんじゃん。アマナイさんと無事来れたよ。あ、みなさん、到着したんで施設まで進んでください。飛獣が来ても食い止めるんで落ち着いて素早くお願いしまーす』
その声はすでにスクラップに近い姿のロボクスから聞こえ、それと共に大勢の住人たちが機体の方に頭を下げながらハンターギルドの施設に雪崩れ込んでくる。そして住人たちが全員門の先に入ったのと同時に少年の『あ』という声が漏れた。
『これ以上は無理かぁ』
その言葉と共に全身を魔獣の血で染め上げたロボクスがガラガラと各部のパーツを散らしながらその場で崩れ落ちていった。
こうして討伐数四十八体(内アーマーダイバーとの協力での討伐数は十二体)、救助人数六十四名という偉業を成し遂げた作業用機体は己が役割を全うして逝ったのである。