012 黒と白の牙剣
「うわ、怖ッ」
店の奥の扉を出た先は地下へと降りる階段であった。厳密にいえばそこは地下ではなく、島の崩れた箇所を補強して造られた足場であり、足元の階段の隙間からは竜雲海が見える。ここから落ちたら地上千メートルまで真っ逆さまに落下し、そのままトマトよりも無惨に潰れて死んでしまうだろう。
「はは、天才アーマーダイバー乗りくんでも怖いかい?」
「まあね。こういうのは別腹だから」
「そりゃそうか。慣れちゃえばどうってことはないんだけどね。この先もアーマーダイバーが置けるぐらいにガッチリ造ってるし」
「へぇ」
「港からはこの足元の町の裏側を経由して荷物を運ぶんだ。上はゴチャゴチャしてるからこっちの方が早くていいんだよね」
なるほどとルッタは頷く。そして天領によって港町も色々と違うんだなと考えた。
ルッタのいたヴァーミア天領は軍港も一緒にあったが、それはヴァーミア天領がハンタークランによって興された際の名残で他の天領ではあまり見られないものだったし、ラダーシャ大天領は港町自体が大都市として発展していた。
なお、このジアード天領の港町も最初からこのような造りではなかったのだが、天領を興す際に港町と定めた土地が崩れやすい場所で、崩落と改築を繰り返した結果、今のような形になっている。
「それにしてもアンタもコーシローもチェーンソーとはいい趣味してるね。それに合体機構もあるってのが良い。浪漫全開過ぎて笑っちゃったよ」
「ん、合体?」
ルッタが首を傾げる。実のところ、チェーンソーの制作についてはコーシローに一任していて、ルッタも詳細は知らないし、コーシローもサプライズのつもりで今まで話してはいなかった。
「できれば完成品渡して驚かせたかったんだけどな」
そう言いながらコーシローが嬉しそうに話し始める。ここまで言いたくて仕方なかったのだろう。
「今回組み上げるチェーンソーは魔鋼砲弾三発を組み込んだバレット式ってヤツなのは説明したな?」
「うん。砲弾を構築した圧縮魔力をまとめて還元して、それをエネルギーにするってんだよね?」
「そうだ。火力を重視するあまりに弾数分の三振りしか使えないってシロモノになったからな。それなりに大きくてかさばるからその用途のためだけに使うにはちょっと邪魔すぎるだろ」
「なるほどね。そこで普段使いでも邪魔にならないようにって魔導剣としても扱えるようにしたわけか」
「ちょっ、先輩なんで先に言っちゃうんですか?」
「そりゃもうガレージに到着したからだよ。ほら、入んなよ」
階段を降りた先の扉を開けたアマナイに続いて、ルッタが中に入るとそこはテオドール修理店と同じようなガレージがあって、バラされたアーマーダイバーや見たこともない武器、それに作業用に使っているのであろうロボクスなども確認できた。
そして中でもルッタの目を引いたのはガレージの中央の大きな作業台に置かれた二振りの剣だ。
「黒い剣と白い剣があるね」
「ああ、黒い方が昇華した牙を用いた黒牙剣、白い方が昇華していない牙を用いた白牙剣だ」
コーシローが自慢げにそう答えた。
黒牙だけではなく、昇華前の白牙が混じっているのは魔鋼砲弾の圧縮魔力を還元させても全てが黒牙だと魔力が足りない計算になったためだ。調整の結果、八十本ある牙の内、黒牙は五十本、白牙は三十本と分けられ、牙の本数が少ない分、白牙剣の方には柄部分に回転機構等が組み込まれていた。
ちなみに牙と言っても大元の牙からもっとも鋭く、魔力発動媒体として非常に強力な真芯の部分だけを贅沢に削り出して使っているので、牙の一本一本は小さく、八十本の牙が並んでいるからと言ってもキチンとアーマーダイバーが使えるサイズに収まっている。
「見ての通り、牙を寝かせて並べる(────)ことで剣の形に整えている。そして合体してチェーンソーモードの時は歯が立つ(││││)形になるわけだな。上手く剣として形を整えられてるだろ。苦労したんだよ、ちゃんと並べるのにさ」
そうコーシローが言う通り、ソレは合体してチェーンソーになるとは思えない普通の剣の形をしていた。
完成系は普通のチェーンソーよりもハンディチェーンソーの刃を伸ばした感じの形状ですね。
アッシュ・ウィリアムズ的なのはパワーが欲しいのでオリジンダイバーか高出力型で採用されます。