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010 イータークラウド

「あーあ、見つかんなかったなー」


 ジアード天領に到着した翌日、ルッタはコーシローと共にとある場所へと出向くためにジアード天領の港町を歩いていた。

 そして道中のルッタの口から漏れるのはここに来るまでに遭遇できなかったシャークケルベロスについての愚痴である。


「こっちのハンターギルドでもまだ討伐確認はできていないようだったからな。一度遭遇して逃げてるらしいし、頭の良い個体ならそのまま海域を離れてる可能性もあるなぁ。ま、そういうこともあるさ」


 コーシローが苦笑いをしてそう返す。

 シャークケルベロスの捜索は一日のみではあったが、本体どころか眷属の姿もなく、生息している気配がしなかった。

 結局のところ、いくつかの飛獣の群れと遭遇してそれらを討伐することはできたが探索の継続はせず、彼らは翌日にジアード天領へと到着していた。

 そしてこのジアード天領の港町だが……


(道が橋みたいになってんのね)


 この港町の地盤はところどころで崩落しかけており、そこに無理やり足場を造って町として成り立たせている様だった。


(ネットも張ってはあるにせよ、アーマーダイバーで暴れたら崩れそうだな)


 実際のところはアーマーダイバーという空を飛ぶ重機のような存在や、鉄のように硬い大木や付与魔術等等のファンタジー要素によって、この世界の建築は雑な割にずいぶんと頑丈にできている。けれどもよく見れば通りすがりの広間にはかなり大きな穴が開いていて、立ち入り禁止の看板が置かれている箇所もあって、やはりあまり安全ではないようだ……とルッタは思った。

 

「ねえコーシローさん、あれって何?」

「先月町中でアーマーダイバーで暴れた馬鹿がいてそのまま落下死したってギルドで聞いたな。いきなり崩れて落ちたんでフライフェザーの展開もできなかったらしいぞ。多分あの穴がそうなんだろうよ」

「へぇ」

「で、今は天領軍が念入りに見回ってるらしくて治安は良くなったらしいけどな。見た感じ町の中も落ち着いてるし。まあ僕たちが余計な連中に声をかけられていないのは、そっちのシルフがいるおかげもあるんだろうけど」


 そう言ってコーシローが後ろからついてくるタレットドローンのシルフを見た。魔導銃こそ収納しているが、フライフェザーのプロペラにもなる四脚で歩く分厚い鉄のパンケーキはある種の威圧効果があった。


「リリ姉が護衛にって」

「ハァ。そうは言ってもリリが自分以外にシルフを貸したことなんてなかったんだけどな」

「前回の件で懐かれたんだよね」


 このシルフは前回フレーヌを操作していた人工精霊アンの宿るタレットドローンである。彼女はルッタに敗北して以降、彼に懐いているようだった。


「そのリリは今はフレーヌで訓練中で来れなかったんだったか」

「うん、シーリス姉とジェットさんも付き合ってる。なんか遺跡と同調した際にリミッターらしいのが解除できそうになったとかで」

「まだ強くなるのかよ。今でも誰も勝てないってのに」


 誰も勝てないという言葉には反論したいルッタであったがそこは自重した。実が伴っていない言葉ほど虚しいものはないと理解しているからだ。

 そしてルッタたちがその穴を通り過ぎて歩き続けていると、正面から何やら慌ただしく竜雲海の方へと向かう一団の姿が見えた。

 彼らはルッタたち……というよりはその後ろにいるアンにギョッとしたリアクションを見せたが、特に話しかけてくることもなく通り過ぎていった。その後ろ姿を見ながらルッタが首を傾げる。


「なんか慌てていたね?」

「イータークラウドがどうとか言ってたな」


 コーシローが眉をひそめながらそう口にする。


「ああ、アレか。そういや朝見た竜雲海はいつもよりも靄がかかっている感じがしたっけ」


 イータークラウド。それは竜雲海の霧状になっている魔力の構成である竜雲が崩れて、海面よりも上に昇ってくる現象だ。

 風向きや竜雲海の流れによっては天空島を通過し、その際には島上でも魔力が満ちているために飛獣が襲いかかってくることがある。それ故にその現象は人喰い雲、イータークラウドと呼ばれていた。


「アレが島に来ると結構大変なんだよねえ。シェルターに隠れなきゃいけないし、シェルターが崩されてご近所さんが食われてたりするし」

「けど僕らにとっては竜雲海と変わらない。過度に心配する必要はないさ」


 イータークラウドは島の上も竜雲海と同じ状態になることで飛獣の被害が出る現象だが、それは竜雲海の上が常のハンターにとってはただの日常の延長でしかない。だからその一行への興味も失ったルッタたちはそのまま先へと進み続け、ようやく港町の離れにある目的地にたどり着いた。


「おお、本当にあった。いやもうパーツも搬入してんだからないと困るんだけどさ。ここだぞルッタ」


 コーシローがそう言って指を差したのは、とある店であった。それを見てルッタがゴクリと唾を飲み込んだ。


「えーと、ここがチェーンソーを仕上げてくれるお店なんだねコーシローさん?」

「ああ、そうだ。ここが」


 明らかに周囲から浮いたディティールをしたその店の左右には猫耳の女の子の等身大フィギアと国民的ロボットアニメの白い主役機が並んで立っていた。そして看板に描かれている店の名前は……


「アキハバラオー最強レアロボ武器商店ジアード支部だ」

秋葉原行くと個人的に立ち寄るお店欲張りセット。最近だとデッドアイランド2とペルチェ素子の冷房グッズと梵字養生テープとか買ってた……でも使い道ないんだよな梵字養生テープ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 濃い店だなあ…… 前回の鮫もそうですけど結構こっちに来てる地球人多いのかな
[一言] メイド喫茶はないのか
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