009 アルティメット研究会
「竜巻を操る鮫、双頭の鮫、イカと融合した鮫、スピリットタイプのゴースト鮫、遺跡と融合した鮫、温泉地限定の鮫? ……とかとかとか。調べたらいっぱい出てきたけど鮫ってなんだろうね?」
ノートリア天領を出港したタイフーン号のガレージでは、ルッタがハンターギルドで調べた際に確認できた多種多様な鮫型飛獣のことを思い出していた。中には冗談としか思えない、いや、そのほとんどが冗談のような存在ばかりであったが、その問いには一緒にいるコーシローも苦笑いを浮かべるばかりであった。
「僕の故郷でも鮫ってのはある種のエンターテイメント的な扱いだったよ。もしかすると鮫というのは何かしらの歪みを生んでしまう悲しい生き物なのかもしれないな」
何を言っているのかルッタには分からないが、コーシローも自分で言っていてよく分かってはいなかった。それは哲学であり、宇宙の真理であり、鮫映画は永遠に不滅で、人間は飲み物なのだ。
「けど、良かったなルッタ。艦長も乗り気でいてくれて」
「そうだね。わざわざ回り道してくれるってんだから感謝しないと」
討伐依頼にあったシャークケルベロスの出没地点は次に向かう予定だったジニン大天領から少し離れた、ジアード天領という天領に向かう航路の途中にあった。
予定よりも遠回りになるルートではあったのでルッタもダメ元で尋ねてみたのだが、対してギアは乗り気であった。ルッタが二つ名に前向きになったことが嬉しいらしかった。ギアはこだわりのある男だ。
「とはいえ、目標地点を通りがかるついでに少し探索する程度だって言ってたから、見つかるかは微妙なところだけどな」
「寄り道してくれるだけで十分だよ。俺のわがままなんだしさ」
ルッタはそういって頷く。現在はゴーラ武天領軍に追われている身。好き勝手やっているように見えて風の機師団は自身の移動先の偽装に余念がなく、ルッタの要望に答えたのも、ゴーラ武天領軍の予想できない行動を取ることで相手を撹乱すると言う目的があってのことだった。
「それにしてもシャークケルベロスか」
「コーシローさんも知ってる飛獣なの?」
「んー、まあなぁ。三つの頭を持ち、溜めが必要な火炎球を頭ごとに順に撃つことで連射ができる飛獣なんだけど……」
「ガトリングガンみたいだよね」
遺跡で手に入れたガトリングガンは今ではルッタのメインウェポンのひとつとなっている。そしてガトリングガンには複数の銃身があり、一発撃つごとに銃身が切り替わる。そうすることで過熱する銃身を冷やして、オーバーヒートを起こさせずに連続で発射させられるのだ。さらに遺跡のガトリングガンは冷却付与もかかっているため、銃身が焼け付くということはないようにできていた。
「どちらかというとノブナガノサンダンウチかねぇ。まあそれはいいんだけど、こいつ新種の飛獣なんだよ。それも人間が造った」
その言葉にルッタが首を傾げる。人間が造った……という言葉の意味がルッタには分からなかったのだ。
「どういうこと?」
「エラのような器官で竜雲海の魔力を取り込み続けて魔力切れも回避し、放つ火炎球も順に一発ずつ。ずいぶんとシステマチックな化け物だろ。イシュタリア文明の遺産のひとつに魔獣改造用のプラントがあるらしくて、こいつはそれを保有している組織が造った飛獣の一体なんだよ」
「組織って……そんなのがあるんだね」
「あるんだ。しかも連中の目的は最強の飛獣を造ることだとかで、馬鹿げた話なんだが実際に造っては時々こうして放流してる。繁殖能力がある場合もあるから数が増えて広がることもあるんだ」
「迷惑すぎない、それ?」
ルッタがそう突っ込んだが、ランクBの飛獣を生み出せるという時点で迷惑どころではない大問題であった。
「いや、普通に不味いと思うんだけどさコーシローさん。その組織、そんなことして捕まらないの?」
「そりゃあどこもいい顔はしないさ。賞金も付いてるし、積極的に動いている天領もあるにはあるんだが……天領ってのは自治がモットーだから、あまり天領同士の連携は取らないし、別のところに逃げられれば基本は追いかけられない。天領同士の連携も話を進めていくうちに連中は逃げちまう。行動範囲も随分と広いんだ。そもそもヤツらには飛獣を操る技術があり、保有している戦力も馬鹿にならないから、下手な戦力で挑んでも手痛いしっぺ返しを喰らうしな」
「なるほど。まあランクBの飛獣を造れるところなんだから当然か」
「そういうことだ。ま、せめて根城でも分かればハンターを集めて攻められるんだけどな。ともかくそう簡単に遭遇する連中じゃないけど、ルッタもアーマーダイバー乗りなら『アルティメット研究会』の名前を知っておいた方がいい」
「……アルティメット研究会」
(何かしら因縁でもあるのかな。名前からして転移者関連かな?)
そんなことをルッタは心の中で予測したが、コーシローの表情が想像以上に険しいものだったのでこれ以上の追求はできなかった。
それから二日後にタイフーン号はシャークケルベロスの生息しているという海域に入ったのだが、一日探索しただけではシャークケルベロスを見つけることはできなかった。そしてそのまま探索を続けることはせず、翌日にはその場を離れてジアード天領へと向かうことになったのだった。
空振り。
アルティメット研究会:
宇宙でも考えることを止めない究極生命体を作ろうとか言いながら、飛獣の生体を調べて現状の被害をどうにかしようと動いている異邦人の善意の組織だった。少なくとも当初は。