008 鹵獲機体売れました
「ナッシュさん、行っちゃったなー」
「ラダーシャ大天領でもケジメ付けるんだってさ。あれでもあっちじゃヒーローだからねぇ」
ノートリア天領に着いてから三日、リギットの屋敷に行ってから二日が経ち、ルッタたち風の機師団は現在もまだノートリア天領に駐留していた。
一方でナッシュはリギットへの挨拶と手続きを済ますと早々にラダーシャ大天領へと船便を利用して戻っていった。
ナッシュはラダーシャ大天領の闘技場の序列一位だ。それを辞めるためには色々なしがらみも存在している。
「上手くいってくれるといいね」
「んー、成功しようが失敗しようが次に会った時の酒の肴になるならそれで良いわよ」
そう言ってシーリスがカラカラと笑った。
「それよりもさルッタ。あれは今、何やってんの?」
ふたりが今いるのはタイフーン号の甲板で、シーリスが指を指した先にあるのはパカっと開いて拡散ドラグーン砲を露出させている船尾であった。そして拡散ドラグーン砲の周囲には整備班が総出で何かをしているようだった。
「アレね。ノートリア遺跡で手に入れた高出力船導核への換装を昨日タイフーン号にしたでしょ。で取り外した元の船導核をどうするかってなってさ。結局売らずに拡散ドラグーン砲用に使うことにしたんだって。高出力船導核との干渉対策が厄介だったけど、今後は二発分まで溜めておけるようになるみたいだね」
「はー、戦闘用雲海船の船導核をずいぶんと贅沢に使うね。ま、うちのクランは金には困ってないけどさ」
「鹵獲したハイドラッグボートと機体四機もいい金額で売れたもんねえ」
道中での空賊『ヒドラの眼』討伐はハンターギルドに申請してすでに認定されている。
他領で稼いでいた空賊であるためヒドラの眼の賞金首などはこの場での支払いはないが、確認され次第クランの指定する天領のハンターギルドに送金されるとのことだった。
また討伐認定が出たことでハイドラッグボートとアーマーダイバー四機についても売買が可能となり、シーリスの言葉の通りに売り払えはしたのだが、その販売先は元の持ち主の商会であった。
本来の流れであれば風の機師団はハンターギルドに一度販売し、ハンターギルドが商会に売却を打診をして、買い上げられない場合は売りに出すという予定だったが、今回はノートリア天領に商会の支部があったため直接の対応となり、スムーズに取引も終えていた。
売却額はハンターギルドに売るよりも高く、商会もハンターギルドから買うよりは安くなる。間に挟まらなかったハンターギルドに旨みはないが手間もないために、特に問題も起こらない。
直接交渉の場合、場合によっては値切りや所有権で揉めることもあるが、相手は大手商会であり、ランクBクランの中でも有名な風の機師団と揉めるような愚を犯すこともなかった。
「ランダン商会って言ってたけど、なんかVIPカードもらったんだよね」
また一部を補給物資の現物支給で対応したことで商会の心象も良く、取引に居合わせた際にルッタは商会の人間からVIPカードをもらっていた。
「空賊を討伐したのはジェットさんで、俺は何もしてないんだけどね」
「ドラゴンスレイヤーの名前は知られてたみたいだし、先行投資ってヤツよ。あたしもいくつか持ってるし。こっちは安くモノが買えて、あっちも名の知れた相手に取引してるってだけで箔が付くからね。ありがたく貰っときな」
「ふぅん。そういうもんなんだ。まあいい話も聞けたし会えて良かったけどさ」
「良い話?」
「うん。ほら俺、鮫殺しなんて名前がついちゃったじゃない?」
「そういえばそうだったわね」
「でも俺が倒したのって銀鮫団ってサメの名前が入ったクランだったわけじゃない。正直微妙だったんだけど」
「自然とついたふたつ名があるだけ素晴らしいって艦長は説得してたけどね」
銀の流星さんはふたつ名についてはうるさいのだ。
「商会の人にその話をしたら、だったら鮫の飛獣を倒せば名実ともになるんじゃないかって教えてくれたんだよね」
「なるほど。ああ、そういや今回帰りにアンタ、ビッグジョーも仕留めてたじゃない」
「そっちはリリ姉と共同でだったし、アルカンシェルフェザーしか素材を取ってない上にナッシュさんの報酬として渡しちゃったからね。実績に残すには微妙だよ。だからこいつのね。討伐ができないかって船長に聞いてみようと思うんだよ」
そう言ってルッタはハンターギルドで手に入れた討伐依頼書を見せた。そしてそこに描かれていたのは『シャークケルベロス』、三つの首を持つ巨大なランクB飛獣であった。
鹵獲機体をハンターギルドに売らずに自分で売る方法もありますが、コネがないと二束三文で騙し取られて機体も闇市行きなんてことはザラにあります。