003 秘密の行方
「それで、遺跡内部を進んでいった先でリリが拐われて、お前が遺跡のガーディアンをほぼ壊滅させて、足止めに来たフレーヌを倒したが足止め自体は成功して、リリが修理したノートリア遺跡が瘴気溜まりの増えた近隣の竜雲海を浄化するべく起動してあのタイフーンが生まれた……だったか」
ギアが聞いた内容を噛み砕いて口にする。
「中々に濃い体験をしたようだなルッタ」
「まあね。それとリリ姉は正確には重要な基幹パーツの修理の承認をしただけっぽいよ。それだけは遺跡の権限では許可が出せなかったんだって。浄化装置を動かすだけなら計測データが条件に当てはまった段階で遺跡の判断でできるらしいんだけどね」
「そうか。訳が分からんという意味ではどっちでも良いな」
「そうだね。俺も言っててよく分かってないし」
そう言って笑うルッタにギアが頭を抱える。一介のハンタークランの艦長が背負うには重過ぎる問題がそこにはあった。
「ハァ。神柱アトラスが竜雲海の浄化をしていて、遺跡はその補助のためにあると。イシュタリア文明は相変わらずスケールが大き過ぎて困るな」
頭をガリガリとかきながらギアがそう口にする。
古代イシュタリア文明。それはかつてこの大陸のみならず、世界全土を支配していたにも拘らず、謎の滅亡を迎えた文明だ。プラントやアーマーダイバーは彼らの遺産であるし、リリたちオリジネーターやオリジンダイバーも同様で、一説によれば神柱アトラスや天空島、魔獣の類すらも彼らによって生み出されたものとされ、このアーマン大陸そのものがイシュタリア文明によって造られたものだという説すらも存在している。そしてルッタの語った内容はそうした与太話に近いものがあったのだが、それを与太というにはあまりにも状況が揃い過ぎていた。
「それでだ」
それからギアはルッタに視線を向けた。
「遺跡でも許可がおりないパーツの承認をリリがしたってのは本当なんだなルッタ」
「そう聞いてるし、実際に遺跡は動いてるでしょ。あちらさんが嘘ついてたら分からないけどさ」
その言葉にギアが唸る。
すべてはノートリア遺跡から情報を得たリリの口から告げられたこと。リリが嘘をついているとは思わないが、遺跡が本当のことを話したかは定かではないし、それを精査するすべをギアは持たない。けれども遺跡が動き出してタイフーンが出現したのは確かなのだ。
「そこを疑っても仕方ないと思うよ。フレーヌは俺の足止めをしてたわけだし、リリ姉がマスターキーって呼ばれる存在なのは間違いないだろうし」
ルッタの言葉にギアが大きくため息を吐く。その様子を見ながらルッタが頭に浮かんだ疑問を口にする。
「ねえ。艦長たちはこのこと、知らなかったの?」
ルッタは、リリとフレーヌはゴーラ武天領の雲海船をサルベージした際に発見したのだと聞いているが、それ以上のことは聞かされていない。だからマスターキーのこともギアたちは元々知っていたんじゃないかとも考えていたのだが、ギアは首を大きく横に振った。
「知るわけがない。俺たちはハンターで遺跡の発掘屋でも研究者でもないからな。サルベージした雲海船の中でリリとフレーヌを発見してからイシュタリア文明の遺跡の発掘や調査の依頼を受けたのも今回が初めてだ。ま、偶然とはいえそれで正解だったんだろうがな」
「ん、なんでさ?」
「そりゃあ、中途半端にこんなことが知られて広まったりでもしたら目も当てられないことになっていただろうからな。ゴーラ以外にもわんさか狙われて収拾がつかなくなる」
「なるほどね。確かにそうかも」
ギアの言っていることはルッタの予想した考えに近いようだった。
「それでさ。やっぱり不味いかな艦長?」
「不味いな。激マズだ。イシュタリア文明の遺産を自由にできちまうかもしれない可能性とかヤバ過ぎる。ゴーラがなんでリリをあそこまで執拗に狙ってくるのか疑問だったがようやくスッキリした。ま、そりゃあ狙うわな」
わっはっは……とギアが笑った。こんな風に空虚に笑うギアを見るのはルッタも初めてだった。
「艦長。笑ってる場合じゃないでしょ。これからどうするのさ?」
咎めるようなルッタの問いにギアが「ふむ」と呟いて、それから少し考えてから口を開いた。
「いや、別に。どうもしないな。予定通りに動くだけだ」
「えー」