028 盗品です? いいえ報酬です!
「ま、まあ、いずれ機会はあるはず……あるといいな」
そんな機会、あってはならんやろ……そんな常識を司る側の内なる声に耳を塞ぎつつ、ルッタはリリ姉に口を開く。
「それでリリ姉。遺跡のあの状況ってさ。すぐ解けるものなの? また遺跡に入れるようになるのかな?」
『うーん。年単位で稼働し続けるから無理だと思うよ。後、修復の承認をしたから、非稼働だった施設も直るだろうし、ガーディアンも増強された状態で復活するはずだから……今と比べて三倍くらい強い?』
なお修復用の資材は遺跡内に溜め込まれており、許可が降りるのをずっと待っていた状態だ。そのため施設の回復は速やかに行われるだろう。二度と土足で勝手に入り込み、暴力で黙らせ、何もかもを奪っていく盗人たちの蛮行を許さぬために全力で修復していくだろう。
『あ、ああ……もしかして一時的ではなくタイフーンがずっと同じ場所に発生し続けている海域があるって聞いたことがあるけど。それってこれなのか!?』
ルッタがリリと話していたところ、ナッシュが唐突にそんなことを口にした。
「発生し続けるタイフーン?」
『そうなんだよルッタくん。立ち入れば死という永続タイフーン海域が竜雲海の至る所で発見されているんだ。それもここ十年の間に結構見つかってるらしくてね』
『全部がそうかは分からないけど……多分ナッシュの推測は合ってる。現在の竜雲海に異常が起きてるのを遺跡も感知していた。タイフーンの中心は魔力風が激しいだけではなくて魔力濃度も危険域だし、そのシールド処理でも防ぎきれないと思うから近づいちゃダメだけどね?』
「……ナッシュさん」
『そうなのか。いや、ハハハハ。そうだったのか』
「あれ、笑ってる?」
五年以上の年月をかけて挑戦し続けた遺跡に入れないと知ってナッシュは気落ちしているのでは……とルッタは考えたのだが、ナッシュは嬉しそうに笑っていた。
『なるほどな。浄化装置。竜雲海の。そりゃあ凄い。この光景を見たら否定もできないな』
「いいのナッシュさん? 遺跡には入れなくなったんだよ? これから遺跡物の回収もできなくなるし」
『それは残念だけどね。まあ問題ないさ。金は遺跡の探索費用の捻出のためだったわけだしね。それよりも遺跡の謎が解けたんだ。緑翼団で果たせなかったものを僕は果たしたんだよ。そのことが僕には何よりも嬉しい』
そう返すナッシュの表情は晴れやかで、もちろんアーマーダイバー内にいるルッタには見えないが声からもネガティブな思いはないようだと理解できた。
『それとだ。リリさん』
ナッシュがジャラッと腰部に接続した三つの球体を見せる。それは動力装置を解体して手に入れた高出力型船導核だ。ここまでずっとナッシュはこれを下げて戦い、脱出してきたのである。
『これって……やっぱり返した方がいいんだよね?』
ここまでの話からナッシュも自分たちが遺跡から泥棒と認識されていると理解しているし、それは事実だ。であれば返すのが筋ではないかと考えたのだが、リリは『えーと、アン? うん、それは大丈夫みたい』と返した。
『遺跡からそれは今回の報酬ってことで許可が出ているんだって。だから問題ないよ』
『許可……?』
ナッシュは数珠繋ぎのソレを見た。
『えっとリリさん? 許可が降りてなかったらどうなってたんです?』
『外に持ち出した段階で自爆させる予定だったって。ドカーンって感じで! あ、それはもう自爆コードは解除してあるから大丈夫だよ』
『じば……はっははは、それは……よ、良かったよ』
やけに簡単に装置から外せたな……とは思っていたナッシュだが、それが罠だったことを知って今更ながらに冷や汗が出た。そこには自分たちが滅びるならお前たちも道連れだという遺跡側の強い意志が感じられた。
ともあれ、そうしたことも含めて心底安堵した顔になったナッシュがブルーバレットを見た。
『となると船導核三つとそのガトリングガンが収穫になるのか。色々あって頭がこんがらがってるけど、こっちの意味でも大成功なのかな?』
ブルーバレットにはワイヤーアンカーで胴体に縛った切断された右腕と、左手にはガトリングガンを、また背にはバケツマガジンを背負っていた。
「そうだね。弾丸の補充ができるかどうかが問題だけど召喚弾ではあるみたいだし、なんとかなってくれるといいんだけど」
(ま、使えたとしても基本は雑魚狩り用だけどね)
ガトリングガンは機体からの魔力を消費しない、つまりはコストがかからないという利点はあるのだが、重量と反動の問題により戦闘では先ほどのフレーヌとの戦闘のようにブルーバレットの機動力が落ちてしまうというデメリットがあった。そのため強敵相手なら使い勝手の良い魔導散弾銃を用いた方が勝率は上がるのだ。また使用すれば飛獣の素材もボロボロになるので使いどころが難しい武器でもあった。もっとも……
(ま、ガトリング無双は浪漫だからなぁ)
無双への浪漫は止められない。
「はー、ともかく探索は終了。後はタイフーン号に合流だ。流されないように気をつけながら進もう。帰るまでが遠足って言うしね」
『そうだね。まったくとんでもない遠足だったよ。中身は充実していたけどね』
『リリは不完全燃焼かも?』
疲れたルッタとナッシュとは逆にリリは元気を持て余していた。
「でも捕まる前は暴れてたよねリリ姉。後ビッグジョーも狩ったし」
『んー、中途半端かな?』
「さいですか。けど今はさっさと寝たいから戻ろうよ」
『りょーかい。戻ったらお姉ちゃんが添い寝してあげるね?』
「いらないです」
そんな言葉を返しながらルッタの口からはあくびが漏れる。ガーディアンたちとの長期戦にフレーヌとの戦闘。危なげない勝利ではあったが、やはり体力の消耗は大きい。
(鍛えてるはずなんだけどなぁ)
子供の体が恨めしいルッタである。
少しずつ肉もついてきているが、まだまだ足りていない。それからルッタは気付けにライムもどきを口にしながら今回の探索のことを思い起こす。
(それにしてもマスターキーか。あの遺跡に干渉できるほどの権限。多分アレがゴーラの狙いなんだろうな)
古代イシュタリア文明の遺跡に干渉できる力。そんなものがあるならば場合によっては古代文明の遺産で成り立つこの大陸を支配することも可能だろう。或いは神の如き権力を得ることすらも。そんなことを想像したルッタは……
「うん。俺の手に余るな。ギア艦長に相談しよう」
子供らしく保護者に相談しようと考えて、仲間たちのいるタイフーン号が駐留しているであろう海域へと移動を開始したのであった。
ルッタくんは溜め込んだりせず報連相がきちんとできる良い子なのです。
今章はこれにて終了。明日10時に紹介回を更新したら次章が完成するまで書き溜め期間に入ります。
9月中に再開予定ですのでしばしお待ちください。
それでは次回『黒白の顎門の章(仮)』もよろしくお願いします。