027 真実は苦く、釣り逃した蟹は大きい
リリ曰く、かつてはノトスフォーと呼ばれていたこの遺跡は常に悪いヤツらに狙われていたのだとのこと。
悪いヤツらとは何か。それは私利私欲で遺跡を荒らして金目のものを奪っていく極悪なヤツらのことである。ルッタはそいつらに身に覚えがある。ナッシュにも覚えがある。ルッタはガトリングガンを見て、ナッシュはノーバックの腰に下げた数珠繋ぎの船導核三つを見た。
ともあれだ。盗人との戦いの歴史は千年を越え、徐々に施設は破壊されていき、ガーディアンの修復機能と維持能力も衰え、時には占拠された時もあったのだという。そうしてどうしようもなくなった時にはメンテナンサーと呼ばれる存在がやってきて、悪いヤツらの殲滅やこの遺跡単体の権限では許可されない装置の基幹部分の修復の承認をしてくれていたそうだ。現在まで遺跡を維持できていたのはメンテナンサーがいてこそのこと。けれども百年ほど前からメンテナンサーが来なくなったために遺跡の機能はだんだんと衰えていき、今回ルッタたちが来た時にはもう維持が精々で装置を正常稼働させることもできないような状態にまでなっていた。
「それでね。そのギリギリの維持のための最後の生命線の施設の動力装置が今日破壊されたらしいんだよね」
そう口にしたリリの言葉を聞いてルッタとナッシュは頭を抱えた。
全ての証言が犯人をはっきりと示していた。悪いヤツらはすでに見つかっていたのだ。
(あー、つまりはそういうことか)
ルッタの頭の中で今回の状況のおおよそのことは繋がった。
元々弱っていた遺跡にルッタたちが致命傷を与えたことで、遺跡は救助を求め、フレーヌがそれに応じたのだ。
(キッカケはガトリングガンの解放か。あれで多分リリ姉が基幹修復の承認ができる存在なんだと分かったんだろうな)
リリの言うメンテナンサーという存在、それはリリと同類のオリジネーターだったのかもしれない。
(それで今、遺跡が稼働してるってことは……)
「ねえリリ姉。今動いてるのはリリ姉が遺跡を修理したからっていうことでいいんだよね?」
『ちょっと違うかな。リリは修理の承認をしただけだよ。直す準備ができても権限がないから勝手に修理することもできなかったらしくてね。彼らはずっとメンテナンサーを待ってたんだよ』
『へぇ。つまりオリジネーターってのはその許可を与えられるってわけなのか。凄いんだな』
ナッシュが感心した顔で頷いているが、その様子にルッタは眉をひそめた。すべてのオリジネーターがそういう能力を持っているならば良い。けれどもソレがリリ個人の特性だとすれば……ルッタはそこまで考えて妙な話になる前に話題を変えることにした。
「つまりはリリ姉は承認を遺跡に与えるために連れ出されたってことだよね。でもさ。もう少しスマートにできなかったの? 結構心配したんだよ」
できれば落ち着いて、まずは報連相をしっかりとして欲しかったと言うのがルッタの正直な気持ちだ。
けれどもリリは口を尖らせて『余裕がなかったんだよ』と返した。
『動力装置が止まったせいで、後はもう予備電源が落ちたら終わりって状況で、その予備電源も一時間保たない状態だったし』
全部が全部、自分たちの行動が原因だったのだ。自業自得。なるほど……とルッタが苦い顔をして頷く。ため息しか出ない。
「それで残された俺たちは遺跡を破壊する危険な侵入者としてガーディアンに襲われたんだね」
『一旦は待機状態になったはずなんだけどルッタたちが塔に行こうとしたから迎撃したんだって。うーーーん? アレ、もしかして悪いヤツらってルッタたちのこと?』
「リリ姉もね」
『なんと!?』
リリは驚愕した。ここまでの状況がスピーディであったのと、遺跡側もリリの機嫌を損ねたくはなかったのか指摘はなかったし、いつの間にか遺跡側の立ち位置にいたリリは己の所業に気付いていなかったのだ。
「ハァ。まあそこはいいよ。つまりは飛び出して遺跡に害を加えようとした俺たちを排除しようとしたもののフレーヌと対峙した時にはもうガーディアンは近づいてこなくなってたわけで、そこら辺からはリリ姉たちの指示ってことだよね」
『うん、そうだよ。リリは準備がまだかかっていたし、あの状況でルッタにアンがメッセージを送ったところで止まらないと思って足止めしてもらったの』
「俺だって事情が分かればあんな無茶はしなかったんだけどなぁ」
『足止めのためのフェイクだと考えて突入する可能性があると思ったんだよ』
「ウッ」
確かにフレーヌからのメッセージだけで止まっていたか……と言われれば、否と言わざるを得ない。
実際そうした素振りを見せたフレーヌをルッタは振り切るために動いていたのだから。
『それにね。ルッタがあの塔に入ると最終防衛装置が起動したはずなんだよね。そうなるとあの人工タイフーン発生に巻き込まれて帰れなくなっていた可能性が高かったからね。アンの行動自体は正しかったと思うよ』
最終防衛装置……その言葉にルッタが瞬きをした。
「最終防衛装置……って何?」
『でっかいカニみたいな? 砲台がたくさんついた要塞みたいな? なんかそんなの。施設防衛のために用意されていたものらしいよ』
(砲台マシマシのカニ型巨大ロボットだって!?)
ルッタの脳裏に衝撃が走る。
そして、だとすればあの場は強引にでも攻めていくべきだったのでは? と少しばかりルッタが思ってしまったことを考えればやはりリリの判断は的確であったと言わざるを得なかった。
ちなみに雑魚リ◼︎クスの肌感覚的な戦力比較としては最終防衛機構はア◼︎ムズフォート、オリジンダイバーはPAのないネ◼︎スト、アーマーダイバーはノ◼︎マルぐらいの扱いです。
崩壊しつつある工業地帯を舞台に超巨大カニ型兵器とのガチバトル……そんなシチュエーションを前に果たしてルッタの理性は保てていただろうか。