011 リザルト
「な、な、な、な、なんなのよアレ!?」
テオドール修理店の中から見ていたシーリスが動揺を露わにしながらそう口にした。
目の前で起きた光景がまったく信じられなかった。
自分がまともに操れなかったブルーバレットを十歳前後にしか見えない少年が曲芸のように操作してゴーラ武天領軍のアーマーダイバー四機を完封したのだ。
初手はジャンクのアーマーダイバーを囮にして敵の注意を引き、建物から飛び出した。
続けてワイヤーアンカーで一機目の足を絡めて転ばし、魔導剣を奪って仕留めた。
そこから銃弾の雨を掻い潜りながら魔導剣で二機目を斬り裂き、鹵獲した魔導銃で撃とうとするというミスはしたものの三機目を魔導剣で難なく撃破。
最後に隊長機と真っ向から勝負して上半身と下半身を綺麗に真っ二つに斬り分けて決着した。
危ないと感じたのは隊長機と最初に斬り合った時のみ。それもまるで何事もなかったかのように即座に立て直して勝利していた。
(あたしにあんな真似ができる? いや、無理無理。あんな器用にワイヤーアンカーなんか扱えないし)
ルッタが戦闘で使用したワイヤーアンカーは、本来作業用のもので物資の運搬や、雲海船に繋ぐのに使う代物だ。
シーリスがワイヤーアンカーを敵の足に引っ掛けようと射出しても上手くいくイメージはまったく湧かなかったし、最悪自分の機体も絡めて自爆する危険性もある。
だというのにルッタはワイヤーアンカーを的確に武器として扱っており、それは最早曲芸の域だとシーリスは考えていた。
(動き自体はあたしが最高に調子が良ければいけるかも……いやいや、あたしは馬鹿か。そもそもあの機体、普通に動かすことだってできなかったし……あー、もしかしてこれって夢? あたしまだ眠ってんのかなぁ)
ルッタがブルーバレットに乗り込んで飛び出す少し前、シーリスはリリにブルーバレットの操縦をルッタに任すように告げられ、当然反対した。それは至極当たり前の判断だ。仮令まともに動かせずとも子供を矢面に立たせて殺すような真似をするぐらいなら自分が盾がわりになってリリたちを逃す方がマシだと言葉を返していた。
けれどもシーリスに危険を指摘された上でもルッタは自分が乗ることを主張し、リリも強く頷いたために、半ばヤケクソな気持ちでルッタを乗せることにしたのだ。
最悪、シーリスがロボクスに乗って時間稼ぎをしてリリを逃すしかないとも考えていたのだが結果はご覧の通りである。夢でも見ているのではないかとシーリスが考えるのも仕方のないことだった。
「シーリス、そこで突っ立てないでこれを動かして」
「リリ?」
シーリスが声のした方に視線を向けると、先ほどまでルッタが操縦していたロボクスにリリが乗っていた。それも彼女がいたのは操縦席ではなく操縦席の後ろのわずかに空いた隙間であった。
「それ有線じゃなかったっけ?」
その指摘の通り、ロボクスは竜雲海から有線で魔力を引いて動かす機体だ。当然、このガレージから動くことはできないはずだが……
「ケーブルを抜いてアンと接続させたの。残りの魔鋼弾を還元させて魔力を生成したからしばらくは動くはず」
シーリスが視線をロボクスの背部に向けると繋がっていたケーブルが取り外されており、タレットドローン『シルフ』のアンが接続されていたのが確認できた。
タレットドローンの内蔵魔導銃の総装弾数は五発。一発はすでに撃っているので残り四発を魔力に還元したのだろう。
「シーリス。これでルッタの乗るブルーバレットに付いていくから操縦して」
リリの言葉にシーリスが「あいよ」と言葉を返す。オリジネーターであるリリは高すぎる適性故に量産機以下の機体を操縦できない。
「ともかく危機はひとまず去ったってのは確かだね。なら、さっさと動きますか」
想定外ではあるが、状況は悪くないのだ。
ルッタの案内でガイナの峠に向かい、タイフーン号と合流してこのヴァーミア天領を脱出する。そのために……とシーリスは頭を切り替えてロボクスへと乗り込むのだった。