023 中に誰もいませんよ
『ルッタくん、彼女は?』
「うーん。レーダーの反応を見る限り、リリ姉は中に乗ってないね。というか操縦している人間がいなさそう」
ルッタの言葉にナッシュが『は?』と声を漏らす。
『オリジンダイバーって無人でも動くのかい?』
「みたいだね。俺も今日初めて知ったけど」
ルッタがそう言ってフレーヌを睨みつける。
相手から攻撃を仕掛けてくる素振りはない。気が付けばガーディアンたちも攻撃を止め、距離をとって近づいてこなくなっていた。
(自分ひとりでここを護るってことか?)
ルッタが眉をひそめた。ブルーバレットが進もうとするとフレーヌはキャリバーを振るって牽制し、この先ヘ進むことを明確に拒んでくるのだ。
「なあお前、フレーヌか? それとも誰かが遠隔操作してるのか? リリ姉はどうした?」
気になることを矢継ぎ早に口にするルッタだが、フレーヌ側からの返答はない。
「話す気はないと。あーなら時間稼ぎかな」
その言葉にフレーヌが僅かに揺れたようにルッタは感じた。それはただの偶然だったかもしれない。或いは疲れたルッタが見た幻覚であったのかもしれない。けれどもルッタは直感でそれが目的なのだと確信を得た。
「そっか。だったら押し通るだけだよね!」
ルッタの判断は早い。即座にガトリングガンを構えながらブルーバレットを加速させて突撃し、対してフレーヌも遅れて動き出す。
「!?」
直後、キャリバーと魔導剣がぶつかり合い、出力差でブルーバレットが弾き飛ばされた。
『ルッタくん!?』
その姿を見てナッシュが声をあげた。
けれどもブルーバレットは空中で体勢を整え直しながらガトリングガンを撃ち鳴らし、接近しようとしたフレーヌを牽制する。もっとも放たれた弾丸はフレーヌに掠りもしない。フレーヌの動きに銃口の移動が追いついていないのだ。
(やっぱり速い。というか雑魚戦ならともかくオリジンダイバー相手じゃこの武器は『重過ぎる』)
ガトリングガンは強力ではあるのだが本来であればキャプチャーのように四本足で固定して撃つのが前提だ。空を飛びながら撃つには重量と反動によって機動力が殺されてしまう。先ほどのガーディアンたちや巨体の機械ワームならばそれでも十分に立ち回れたが、さすがにオリジンダイバー相手ではそうもいかないようだった。
「ま、しゃーない」
であればとルッタはガトリングガンとバケツマガジンをその場でパージし、ブルーバレットの腰部にマウントしていた魔導散弾銃を掴んで取り出す。
「まともに立ち回るならこっちの方が……だしね!」
頭部も二本角の索敵モードから一本角の戦闘モードへと切り替わり、魔導散弾銃と魔導剣の二刀流という本来のスタイルとなったブルーバレットがフレーヌへと再度突撃していく。
『ルッタくん、相手はオリジンダイバーだぞ』
「問題ないです」
そう返しながらルッタは魔導散弾銃から散弾を発射し、それを盾で受け止めたフレーヌへと魔導剣で斬りかかるが、フレーヌはその一撃を盾で受け止めた後、一歩下がった。
(リリ姉が乗っていないせいか、動きに精彩がないな)
キャリバーの出力はいつもより低く、盾は近接型キャプチャーの持っていたものと同じ。オリジンダイバーとしての出力は厄介ではあるものの、リリの乗っていた時と脅威度は比べるまでもない。
(それにシルフが動く様子もない……と)
フレーヌは元々近接戦用だとルッタはリリより聞いている。ただリリは守るよりも避ける方が性に合っているため、専用の盾は外して長距離用の魔導長銃を装備していたのだ。
けれどもそれはリリが万能過ぎるだけで、シルフで牽制しつつ盾とキャリバーを用いて接近戦に持ち込むのがフレーヌのスタイルであり、今の状態こそがリリが乗っている時よりも本来の姿に近いのだろう。
(リリ姉もシルフも抜き……それでも機体性能差は歴然。その上に)
対してルッタは油断こそしていないが、相手がオリジンダイバーだというのに昂揚感はなく、ただ冷静に戦力差を測っていた。
「どうにも攻めの気配がないのが厄介か」
そんなことを口にしながらルッタはフットペダルを踏んでブルーバレットを加速させ、フレーヌに対して魔導剣を振るう。対してフレーヌの振り上げたキャリバーがそれを弾き、距離を取ったところでルッタが魔導散弾銃を撃つがそれは盾によって防がれる。問題なのはそこから相手が踏み込んで仕掛けてこないことだ。
(カウンターを狙わせてくれないのは面倒だな)
量産機の性能だけでは格上相手を仕留めるほどのダメージを出すのは難しい。であれば相手の力を利用してカウンターを仕掛けるのが手っ取り早くはあるのだが、守りに入った相手ではそれが難しい。相手の狙いがルッタの予想通りに足止めなら現時点で勝敗はフレーヌの側に向いている。けれどもルッタの表情に諦めはない。その瞳は爛々と輝いており、集中力は高まり続け、打開策を……と動き出す。
「まあ、だったらこちらから仕掛けるだけなんだけどさ」
そしてルッタがフットペダルを踏み込み、ブルーバレットがフレーヌに向かって再度加速した。