022 ガトリング無双
「ふぅううう」
ルッタが息を吐きながらフットペダルを踏んでブルーバレットを加速させる。眼球を目まぐるしく動かしながら周囲の状況を捉え、確実に敵を仕留めていく。
(遠距離、当てる。射撃二、牽制。避けきれない。なら斬る。それから)
ルッタが離れた位置にいるスキャナーをガトリングガンで撃って破壊すると、続けて攻撃を仕掛けようとした二機のキャプチャーに撃ち続けて近づかぬように牽制し、さらに突撃してきたビッグアイの鋼鉄の触手を左手に持っていた魔導剣のカウンターで斬り裂いた。
それからビッグアイの本体に接触するとゼロ距離でガトリングガンを連射して破壊する。同時にルッタはカラカラと回転するガトリングガンに気付いた。
(もう残弾尽きたか。けど感覚は掴めてきた)
ルッタはビッグアイの爆散による衝撃波を敢えて受けることでこの場から加速して離脱すると、ノーバックの側へと着地する。
「ナッシュさんッ」『受け取れ』
そしてルッタの呼びかけと同時にナッシュがバケツマガジンを投げ渡し、両機は再び距離をとって戦闘を再開した。
(ナッシュさんのサポート、助かる。戻ってきてくれて良かったよ)
撤退を促したナッシュがどうして合流してきたのかは問わない。今のルッタにできることはナッシュの判断を尊重して戦術に組み込むだけだ。
(けど、バケツマガジンの受け渡しはすでに五度目。補給係のナッシュさんへ集中攻撃すれば状況も変わるだろうに。あいつら学習能力がないのか?)
前世の世界よりも高度な技術で作られたガーディアンの稚拙さにルッタは首を傾げる。それはまるでゲームのイージーモードの敵のようであった。
(まあ、それでこちらの負担は減ってるんだからいいんだけどさ)
ガーディアンの相手はあくまで魔獣を想定し、物量で押し返すためのもの。それ以外に対して脅威となり得るような過剰な戦闘力は持たされていない……というような遺跡側の事情など分からぬルッタは疑問を感じつつも着実に前へと進んでいく。
『ルッタくん、大丈夫かい?』
「まだ問題ないよ。敵の密度濃い……けど、多分もうチョイ」
バケツマガジンを手渡しながらの問いにルッタがそう返す。機械ワームが逃げた方角にあったプリンの塔はもう目前となっていた。
その建物に近づくほどに敵戦力は増えていったが、それももう残りわずかだ。すでに中央のガーディアンは打ち止めなのだろう。現在は遺跡周辺に配置されていたガーディアンたちが個々にやってきて散発的に襲ってきては返り討ちにあっているという状況だった。
(数は多かったが思ったほど苦労はしなかった。まともに運用されていれば違ったんだろうけど)
ガーディアン自体は大したことはないが、ガトリングガンの制圧力は脅威だ。まともな指揮があればルッタであっても難しい状況になったかもしれないし、ナッシュはさっさと撃墜されていただろう。
『もうすぐ中央施設だ。このままガーディアンを全滅させれば遺跡を探索し放題になるね』
「確かに。けど、リリ姉拾ったら一度は戻るよ。さすがにキツい」
『ああ、もちろんだ。遺跡の損害も数日でどうにかなるもんじゃあないだろうし、ガーディアンたちもすぐには復活しないだろうさ』
そんな会話ができるほどにはガーディアンの攻撃も散漫になりつつあった。
(プリンの塔。リリ姉がいるとすれば、あそこの可能性が高いか。このまま突入してフレーヌの反応が見つけられれば……ん?)
あと一歩でプリンの塔だというところで、バイザーに先ほどのものと同じ反応が床下から現れたのにルッタは気付いた。
(馬鹿のひとつ覚えかよ。そんで、呑まれたはずのフレーヌの反応もないなら)
「容赦する必要はないよなぁあ!」
そしてルッタがフットペダルを一気に踏み込んで、ブルーバレットを急下降させる。
『何をする気だルッタ君!?』
ナッシュの方でも遅れて機械ワームの反応を捉えていた。その無謀に見えるブルーバレットの特攻にナッシュが悲鳴のような声をあげるがルッタは無視してガトリングガンを正面に構える。
「装甲は厚いようだけど攻撃手段は噛みつきだけなんだろデカブツ」
床の鉄板が弾けて飛んで、巨大な機械ワームが飛び出した。
「だったら敵じゃあない!」
ルッタは機体を掠めるほどに最小限の動きでかわしながら機械ワームに取り付いてゼロ距離でガトリングガンを撃ち続ける。装甲は厚く機動力もあるようだが、ルッタの操縦技術ならば並走しながら当て続けることも可能だ。
(やっぱりコイツ、戦闘向きじゃない。採掘用とかそんな用途の機械か。硬いけどそれだけだ)
ルッタは機械ワームの装甲の隙間から見えるスラスターや可動部位も狙って撃ち続け、さらに頭部付近のセンサーらしきものをも砕く。そうして機械ワームの全身を削り続けていくと、ついにはその巨体が動きを止めて搬送路らしき通路へとガシャンと落ちていった。けれどもこれでフィニッシュとはいかなかった。
「ふーん。ボス戦クリアで終わったとはさせてくれないわけかぁ」
ルッタがため息を吐きながらソレを見た。
倒れた機械ワームを庇うようにプリンの塔から飛び出した機体があったのだ。その機体の装甲は白く、両腕に剣と盾を携え、光の翼を足より生やしていた。その姿を当然ルッタは知っていた。
「リリ姉じゃないな。誰だよアンタ?」
それはオリジンダイバー『フレーヌ』。
リリの愛機であるはずのその機体は、キャリバーの切っ先をブルーバレットに向けながら姿を現したのである。