021 ダンス イン ザ アイアンレイン
「う……ぁあ」
ナッシュがソレを見て、呻くような声を出していた。
そこはノートリア遺跡内の施設の外だ。ルッタが飛び出した後、ナッシュはわずかに悩んだものの、結局は遺跡を去ることはせずルッタの後を追っていた。
その決断に至るまでに多少の時間がかかったのは仕方のないことだろう。ナッシュにとってその選択は己の死に場所を決めるのと同義のものであったのだから。
「冗談だろ……これは」
けれどもナッシュの覚悟は施設から出てすぐに霧散した。それは絶望からくる諦めの境地では無い。ただ気付いてしまっただけなのだ。その場が『死地からわずかに遠い場所である』という現実に。
『ォオオオオオッ』
空から響き渡る咆哮は齢十二の子供のもの。けれども声に込められた闘志は猛獣のソレに近い。
先ほどから絶え間なく銃声が響き渡り、ガトリングガンが火を噴き続けている。まるで出鱈目に撃っているように見えるソレは、けれどもガーディアンたちを的確に撃破していた。
「はは、これはもう僕の知っているアーマーダイバーの戦いじゃあないな」
熱に浮かされたような顔をしながらナッシュがそう口にした。こんな戦場をナッシュは知らない。双方から飛び交う銃弾の雨の中を舞うが如く突き進む蒼い弾丸。それはアーマーダイバーの戦いではない。それはこの世界のものではない、別の世界の架空の遊戯を体現したかのような戦場だった。
「それになんでルッタくんの攻撃は当たってガーディアンのは当たらないんだ? あんなにめちゃくちゃな動きなのに」
ガトリングガンという重く、反動も大きい武器を使うことでブルーバレットの軌道はブレ、その動きは精彩を欠いているように見えた。けれども実態は違う。
「だが実際に当たっていない。これは反動すらもコントロールしているということなのか?」
見ようによっては理不尽な光景だとしても、そこには当然理屈が存在する。
ナッシュたちは知りようもないことだが、この遺跡は古代イシュタリア文明において軍事施設に該当するものではなく、従って対魔獣の防衛用としてひとまずは当たれば良いという程度の射撃精度しかガーディアンは持たされていなかった。
それではアサルトセルで銃弾の雨をくぐり抜けてきた記憶を持つルッタには届かない。ガトリングガンの反動すらも避けるための推力として縦横無尽に暴れ回るブルーバレットには当たらない。狙いに迷いがないことが殊更に哀れであった。迷い弾であれば、万が一もあるだろうに。
「それにルッタくんは索敵モードを解いていないのか」
またルッタの乗るアーマーダイバーという人型機械はオリジンダイバーの劣化模倣品ではあるのだが、一部の機能においてはオリジンダイバーに近い性能を持つ。例えばアーマーダイバーに標準搭載されているレーダーなどがそうで、特にブルーバレットの頭部パーツの広域レーダーはフレーヌと同程度の精度を持っていた。
そして現在ルッタはガトリングガンを使用しているために、召喚弾の再装填の必要がないため索敵モードのまま、より解像度の高いレーダーを頼りにガトリングガンを撃ち続けていた。また接近しては魔導剣で斬り裂き、ショルダーカノンの一撃でビッグアイも適切に破壊している。
そうして数の差は質の差に凌駕される。尤もだからといって恒久的にルッタ側が有利でいられるという話ではない。
『!?』
唐突に銃口からの火が止まり、ガトリングガンがカラカラと鳴った。
「弾薬が尽きた。不味いぞルッタくん」
ナッシュが叫んだ。あそこまで撃ち続けたのだ。当然弾切れも起こるだろう。しかし、それもルッタにとっては大した問題ではない。なぜならば……
『君に決めたッ』
そう声をあげながらルッタは近くのキャプチャーの一機を魔導剣で切り裂くとバケツマガジンを奪い取ったのだ。
「そ、そうか。あのマガジンは乗り手と紐づいていない!」
アーマーダイバーの魔導銃と違い、ガーディアンの装備は共有して運用することが可能なものなのだ。そのことをナッシュが把握して頷いている間に、ブルーバレットは建物の影に隠れてバケツマガジンの弾帯をガトリングガンに繋ぎ直すと、すぐさま飛び出して戦闘を再開する。
「だとすれば、今僕にできることは」
流れるように行った換装だが、そこには僅かな隙が存在するのはナッシュにも分かった。であればとナッシュは己の役割を理解し、ルッタが取りこぼしたガーディアンたちを仕留めつつ、ブルーバレットが弾切れを起こした際に即座に渡せるようにとバケツマガジンの回収をし始めたのであった。