019 神乃鍵
「よいしょッと。どうなってんだろ、これ」
動力装置を破壊して戦闘が終了となった後、施設内は一斉に区画のシャッターが降りて閉鎖された。
侵入者をこのまま閉じ込めようという意図があるのだろうが、先ほどのノーバックがゲートを破壊したようにアーマーダイバーの火力は施設の防御を上回る。脱出は容易であるために、まずは物色タイムとなっていた。
「撃てない。そもそも起動してないか」
そしてルッタが気になっていたのはキャプチャーが装備していたガトリングガンであった。
カチカチとブルーバレットにトリガーを引かせても反応しない。またガトリングガンには弾帯がついていて、それはキャプチャーが背負っていたバケツのようなものに繋がっていた。
『そのバケツ型のマガジンの中に大量の弾丸が渦を巻くような形で入ってる。以前にも鹵獲して上に持っていったけど、トリガーを引いても撃てないし、バケツマガジンの中の弾丸も三日ほどで消滅したんだ』
「へぇ、召喚弾ではあるってことか」
『そうなんだけど、ガーディアン同士では使い回しもできるみたいでアーマーダイバーのものとはちょっと違うみたいだね』
魔鋼弾などのアーマーダイバーの使用する兵器の弾は総じて召喚弾と呼ばれるもので、その使用は召喚主である乗り手しか扱えず、機体から離すと一時間と経たずに消滅する。
対してガーディアンのソレは召喚の継続時間が長く、使い手も選ばず、またバケツマガジンを交換することで即座に再装填も可能ということだ。つまりはアサルトセルのように撃ちっ放しの戦闘も可能ということであった。
「ズっこいな。羨ましい」
『僕としては恐ろしいという方が先に来るけどね。ルッタ君はよくアレに狙われ続けながら被弾なしで戦えるもんだよ』
ナッシュが素直な気持ちでそう口にする。
先ほどの戦いにはナッシュも参戦していたが、それはルッタの支援あってのものだ。ナッシュだけでルッタのフォローもなしに挑めば、途切れない集中砲火を浴び続けながら囲まれて瞬く間にスクラップにされてしまっていたことだろう。
「ま、こいつらのエイム、ちょっと甘いからね」
対してルッタにしてみればガーディアンの攻撃は殺意が足りないと感じていた。
プログラムで動いているにせよ、いかに殺そうかと試行錯誤したというよりもとりあえず狙って撃ってます感が強く、アサルトセル時代の銃弾の嵐に比べればヌルゲーも良いところであった。
(ガトリングガンはスマートガン的な認証システムがあるみたいだ。でもこの銃の本体はバケツマガジンの方だな。ガトリングガンの認証がどうにかできれば使えそうなんだけど)
その認証を解く方法などルッタには分からない。つまりは無価値だ。
「使えれば良い武器なんだろうけど、このままだとガラクタだなぁ」
『そういうことだね。研究用にって人に売ったけど二束三文だったよ』
ナッシュが苦笑しながらそう返した。
実際遺跡で見つかるものなどそうしたものがほとんどだ。けれども、場合によってはオリジンダイバーや拡散ドラグーン砲のようなものも発見される。一攫千金を狙う人間が後を絶たないのも仕方のないことだった。
そして、そんなことを話している途中で入口の外から何かが近づいてくるのが見えた。それは先ほど囮として飛び出していったリリの乗るフレーヌだ。
『とうちゃーく』
「お帰りリリ姉」
『ただいまルッタ』
フレーヌがブイサインをする。
なおフレーヌは外で暴れた後、この施設の最初にルッタたちが入った穴から侵入して、道中の閉じたシャッターを文字通りに斬り開いてここにたどり着いていた。
ガーディアンたちは定められた進入路以外からは基本施設には入れない。そのため、リリの通った経路でのガーディアンの侵入はないようだった。
『外は突入のための準備をしてたよ。それもある程度は蹴散らしたけど』
「さすがリリ姉。となれば、猶予はもう少しあるかな。ナッシュさん、どう?」
『ああ、今回の成果としては上々だ。ほら見てくれ。動力装置を解体して出てきたものだ』
そう言ってナッシュの操るノーバックが持ち上げた手にあったのは複雑な紋様が刻まれた金属製の、直径1メートルはある、切れたチューブが垂れている三つの球体だった。
「アレ? それって船導核じゃない?」
ルッタがそう口にする。
それはタイフーン号の船導核に近いサイズと形状をしていた。ちなみにアーマーダイバーの機導核も同じような形状だがふた回りほど小さい。
『ああ、同じ規格だと思うよ。それに確認した限りじゃ通常の船導核よりも出力は上だろうね。それが三つ。これを持ち帰るだけでも今回の探索は大成功だ』
ナッシュが上機嫌に言う。
今回ナッシュは風の機師団に協力依頼として相応の金額を払っているが、発掘した品に対しての取り分はフィフティフィフティだ。雲海船で最も高額なパーツである船導核が1.5個分ともなれば資産としても十分過ぎるほどだし、場合によっては自分で雲海船を手に入れて新たなクランを立ち上げることすらもできるだろう。
もっともリリにとってはどうでも良いことのようで、すぐに興味を無くして視線をブルーバレットの持つガトリングガンに向けた。
『ルッタのソレは……キャプチャーの持ってたやつだよね?』
「そうなんだよリリ姉。ガトリングガン、どうにか使えないかなって思ってさ。ちょっと弄ってた」
『ふーん、見せて見せて』
「はいな」
その言葉を受けて近づいてきたフレーヌにブルーバレットがスッとガトリングガンを渡すとガシャンという音がした。
「え?」
『ん?』
そしてルッタはヘルメットのバイザーに『ブルーバレットにガトリングガン使用の承認がおりました』という表示がされたのを目にし、そして……
(マスター……キー?)
そんな文字も一緒に書かれていたのに気付いたのであった。
古代文明の遺産によって成り立つ世界。
であれば『その鍵があれば』きっと全てを得られるだろう。