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017 囮少女

「うーん。ここら辺まで来るとアーマーダイバーやマキーニの残骸、それに深獣らしい亡骸が増えてるね」

『流石に生きてる施設の近くだと警備も厳重になってくるからガーディアンに見つかることも多いんだ。今回はルッタくんとリリさんが優秀だからバレずに来れたけどね』


 ナッシュがここまでの移動をそう評価する。フレーヌとブルーバレットのレーダーの性能は強力で、またそれ以上にリリとルッタ個人の索敵能力も確かなものであった。もっとも今回の依頼の本番はここからだ。ルッタも褒められたからといって浮かれて増長することはない。


「ナッシュさん、ところでガーディアンたちの残骸はないけどあいつらって、そんなに強いの?」


 先程のオーガとの戦いは遠目で確認したものの、未だやり合えていないガーディアンの実力は未知数だ。であればルッタが今見えている状況から相手の能力が気になるのも当然のこと。けれどのナッシュの返答は『いや、そうでもないよ』だった。


『どちらかと言えば被弾を気にせず数で押してくるし、撃破はしやすいんだ。ただあいつらは破壊された仲間を回収する。多分修理して再利用してるんだと思うんだけど』

「なるほど。だから残骸がないんだ」

『そうだね。ついでに言うとアーマーダイバー、マキーニの機導核や深獣の魔石なんかも回収する。多分、そういうのも修理に使ってるんじゃないかな』


 その言葉を聞いてルッタの中で目の前の残骸の価値が一気に下がった。


「じゃあアレを漁っても何も出なさそうだね」

『実際に漁った経験者から言わせてもらうと見合う成果はなかった……と言わせてもらうよ。あとここまでの施設内で価値がありそうなものは可能な限り回収し終えているから探索しても旨味は少ないんだ』


 なのでこれまでは素通りで進んでいた。この場所までならナッシュもわざわざ風の機師団を雇う必要はなかったのだ。


『で、ここが僕の最終地点だ。緑翼団の時にこの場所にたどり着いて、そしてそれから一歩も先に進めていない』


 その先には崩れた施設の壁の穴があり、灯りの点いている別の施設が見えていた。その裏手にはプリン形状の塔の姿もある。


『この先に進もうとして袋叩きにあって逃げたのが一年前。だからここからは未知の領域だ』

「つまりは俺たちの冒険はここからだと」

『そういうことだねルッタ君』


 打ち切りエンド的なルッタの問いにコーシローなら何かしらかの反応を見せたかもしれないが、ナッシュはただ普通に勢いよく返しただけだった。差し込んだ微妙ジョークの不発にルッタは少しだけションボリした。


「ナッシュさんの目的は未探索エリアの探索。で、こっから先がそうで俺たちがまずやらなきゃいけないのは目の前にある生きてる施設の動力の停止だったよね?」

『そうさ。施設内の動力中枢の場所に当たりはついてる。けれどもここから先、戦闘は避けられない』


 それは来る前のタイフーン号内のブリーフィングでも話していたことだ。

 道中の地形、ゴブリン、オーガ、ワイルドウルフの三種の深獣の存在、そしてガーディアンの少ない死んでいる遺跡内を進み、中央施設に連なる生きている施設のひとつの電源を切断して機能を落とし、そこの探索を行う……というのが今回の依頼の全容で、ここまではすべて予定通りである。中央のプリンの塔がルッタは気になっているが、今回そこまで探索するには時間が足りない。


(ゴーラとのゴタゴタが片付いたら、またここに来れないかな)


 分からないものがわからないまま放置されることに居心地の悪さを感じたルッタがそんなことを心の中で呟いた。

 それからルッタはフレーヌへと視線を向ける。


「リリ姉、それじゃあこっからは別行動だけど問題ないよね」

『ルッタと離れるのだけが問題……かな?』

「オッケー。じゃあ始めようか」

『反抗期。悪い子』


 リリ姉の言葉を無視して、それぞれが動き出す。ここから先は戦いの場だ。


『でも姉は弟を許す。八つ当たりは彼らにする』


 そう口にするとフレーヌが動き出し、そして外に通じる穴の先、かなり離れた場所に見えたビッグアイに向かって魔導長銃を撃ち、眼の中心を貫いた。その様子にナッシュが目を丸くする。


『一撃でビッグアイを仕留めた!?』

『じゃあ行ってくる!』

「いってらっしゃい。気を付けてねリリ姉」

 

 ルッタの言葉にリリが『うん』とだけ返すと、フレーヌがルミナスフェザーを展開して一気に建物の外に飛び出し、それからすぐに戦闘音が響き始めた。


『始まった。それにしてもあの距離でビッグアイの弱点を当てるか。オリジンダイバーの狙撃力は凄いな』


 ナッシュが感嘆の声をあげるが、ルッタは「違うよ」と即座に否定する。


「アレはリリ姉の実力だよナッシュさん。フレーヌは近接戦用だから射撃補正はアーマーダイバーと大差ないんだって」

『え、そうなのかい?』


 ナッシュが驚きの顔を見せるが、実のところ、その補正すらもリリは切っているとルッタは聞いていた。

 理由はグニャグニャと勝手に動いて気持ち悪いからだという。


(リリ姉が魔導長銃を持ってるのは遠中近のどの距離でも自分の実力で当てられる自信があるからなんだよな)


 スナイパーライフルでロングレンジスナイプもゼロレンジスナイプもこなせる実力を持つのがリリ・テスタメントという少女だ。それはオリジンダイバーの性能ではなく、純粋に彼女個人の力であった。


「それじゃあ戦闘音も遠ざかってるし、リリ姉が引きつけている間にさっさと行こう」

『あ、ああ……そうだね。進もうルッタ君』


 リリの囮役は作戦前に決められていたものだ。

 当初はルッタが志願したのだが、それは止められた。対処はできても作戦終了後にまた寝込むから……というのが理由で、それにはルッタもぐぬぬ顔で頷くしかなかった。なお女の子と子供に囮をさせることにナッシュは渋い顔をしていたが、ナッシュ自身では純粋に力不足であるために口を挟む権利は当然あるはずもない。

 そしてフレーヌより遅れて一分後にブルーバレットとノーバックが死んでいる施設の中から外に飛び出し、そのまま静かに生きている施設への侵入を果たしたのであった。

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― 新着の感想 ―
リリさん自らエイムアシスト切ってるのか笑
[一言] その囮っ娘、今いるメンツで最強まであるからなあ 外は気にせず探索しましょ
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