スパダリな幼馴染とマイペースなわたし
リハビリ的に短編を。
最初に「スパダリ」という単語を聞いた時、はてなマークでした。
どちらかというとスパルタの亜種?と思ったことも…。
ネットサーフィンで久しぶりにこの単語を見つけたので、なんとなく思い浮かんだのを話にしてみました。
「ねえ、スパダリ、って知ってる?」
わたしはいつものようにみー君の部屋で、この間、友人にに言われたことを思い出した。
「スパダリ? ちょっと待て」
そういってみー君はスマホを片手に検索を始めた。
みー君こと、安原湊と、わたし、高橋あゆみはいわゆる幼馴染である。
小中高、続いて大学、就職先まで一緒で、今は一人暮らしだけど1Kの部屋に隣同士で住んでいるため、ほぼ毎日みー君の部屋でご飯を頂いている。今も、みー君が用意してくれたご飯を頂いているところ。
「ちょっと待て、あゆは腐女子だったのか?」
「え? 違うよ? なっちゃんだって本は好きだけど、BL好きとは言ってなかったよ?」
「スパダリとは――」
みー君はそう言って、スマホで調べたスパダリの意味を言葉にしていく。
――「スパダリ」とは、「スーパーダーリン」を省略した言葉です。
「スーパー」とは、特別、素晴らしい、一流の、特大な、を意味します。「ダーリン」は、言わずもがな男性の恋人や夫への呼びかけ、最愛の人という意味です。
つまり「スパダリ」とは、高学歴、高収入、高身長を兼ね備えた男性、性格も良くイケメンな男性など、完璧な存在指す表現なのです。
(マイナビウーマンより引用)
「……わたしは腐女子でもないし、みー君も同性愛者じゃないね。なんで、なっちゃんはみー君のことを『スパダリ』って言ったんだろ?」
「俺に聞かれてもな……まあ、まだ説明があるな」
――スパダリは前述の通り、BLからきていると言われています。この一言で「顔良し、性格良しのパーフェクトな男性」と簡潔に言い表すことができる表現。
(中略)
「スパダリ」と同じような意味で使われる言葉は他にもたくさんあります。その例として代表的なのが「ハイスペ彼氏」「白馬の王子様」など。
両方の言葉に共通しているのは、やはりハイスペック、イケメン、そして女性をドキドキとときめかせる要素を持っている男性であるという点です。
(同じくマイナビウーマンより引用)
「だそうだ」
「なるほど。確かにみー君って顔はいいし、勤めてる会社だって結構いい会社だよね。料理上手だし面倒見いいし」
「その結構いい会社に、あゆだって勤めるだろうが」
「でも、営業と総務で雑用係じゃ、全然違うよ?」
みー君は営業の中でも、やり手で出世街道まっしぐらだし。
同じ会社でも総務で何でも屋のような雑用をやっているわたしとは、全然違うと思う。
「それにしても、なんでスパダリなんて言葉が出てきたんだ?」
「えーと……先週の土曜日になっちゃんと久しぶりにランチに行ったのね。んで、近況を色々話してたら、『あゆはいいよね。安原君っていうスパダリがいて』って言われたの。でも、スパダリの意味が分からなかったから、適当に笑って誤魔化してたんだよね」
「……それか」
「それ?」
ん? なっちゃんはみー君とわたしが幼馴染って知ってるはずなんだけどな。
「あのな。朝も寝起きが悪いから隣の部屋でもモーニングコール、しかも大体2回。それから、朝は俺の所にきて朝食食って、弁当も受け取って、夜もこうして夕飯を食いに来るんだぞ。そんな近況を聞かされれば、付き合っていると勘違いされても仕方ないだろう」
みー君は一気に語ると、はぁ、と深いため息をついた。
そう言われると……わたし、みー君に色々やってもらっているなぁ。でも、今までみー君から文句言われたことなかったんだよね。でも、ため息をつくってことは、ホントは嫌だったのかな?
面倒見がいいから、ずっと気付かなかっただけなのかもしれない。そう思うと、おなかいっぱいの苦しさではなく、胸に何か閊えたような重苦しさを感じた。
持っていたお茶碗とお箸をテーブルに置いて。
「みー君、ホントはわたしのこと、面倒くさいって思ってた?」
首を傾げてみー君に問う。
みー君は口元に手を持っていき、しばらく俯き加減で考えて。
「んー……今更、か? 小学校から一緒にいて面倒見てれば、それが当たり前になっているしな」
と、意外と何でもないように言うみー君。
でも。
「このままじゃ、みー君に彼女できないよね?」
「なんでだ?」
「わたしの世話してたら、みー君彼女作る時間ないんじゃない? それでなくてもなっちゃんには勘違いされるし」
「……まあ、一理あるな」
あっさり肯定されて、ちょっとへこむ。
でも、さっきみー君が言ったように、わたしってみー君にお世話されたんだよなぁ。別々に暮らしてるって言っても、傍から見れば付き合っているも同然に見えるくらい一緒にいる。
どうしよう、もし、わたしのせいでみー君に彼女ができなかったら……
「決めた!」
「なんだ?」
「わたし、頑張って独り立ちする!」
「無理だろ」
せっかくみー君から離れて自分のことは自分でしようと思ったのに、みー君はあっさりと無理だと告げる。
「そ、そんなの分からないよ!」
「まず、朝。低血圧でボーっとしているあゆが、遅刻しないように起きれるわけがない。もし、仮に起きれたとしても、朝食を用意する時間も食べる時間もない。昼食は社食があるから、栄養はまあ、問題ないだろう。で、帰って来てからの夕飯は……まともに作れるのか?」
「……う゛」
本当にありそうなことを言われて、ぐうの音も出ない。
いや、一応料理はしたことあるんだよ。でも、わたしは興味のあるものは凝り性で色々やるんだけど、料理にはそこまでの熱意がなくて、適当なものしか作ったことがない。ネットでレシピとか見ても、分量は目分量なため、味はいまいちなものが多い。
それに比べ、みー君の作る料理は美味しい。お店を開いたら――とまではいかないけど、男の料理って感じじゃなくて、ちゃんとした料理なのだ。しかも、ネットのレシピを見て苦も無くささっと作る。
悔しいけど、みー君に勝てる要素がない!
「別に俺はこのままで構わない。さっきも言ったけど、慣れてるしな。あゆの友達が言ったことを気にしてるなら、俺と付き合うか?」
「………………はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「そんなさらっと決めて大丈夫なの!? わたしってマイペースで、みー君に結構迷惑かけてて! それなのに!?」
「今更だろ。一体何年一緒に居たと思ってる。まあ、幼馴染の関係のままか、その先に進むかそれだけだろ?」
「何それ、そんな簡単に決めるもの!?」
「俺はどっちでもいいが?」
動揺しているわたしを余所に、みー君は普通の口調で答えると、サラダに箸を伸ばして取ると口に放り込む。
むむむむ……なんか余裕そうなのが気に入らない。とはいえ、下手にこたえるとみー君との関係が終わりになってしまう。それは嫌だなぁ。
小さいころからずーっと一緒にいて、仕事をする年になっても毎日一緒に過ごしている。
……あれ? みー君に迷惑かけてるのもあるけど、こんな感じじゃ、他の人と付き合う時間がないかも? 実際、以前付き合った時もすぐ別れちゃったしなぁ。
でも、みー君なら……。
「………………分かった。付き合う」
「そうか」
わたしがあれこれ考えて出した答えに、返ってきたのは気軽な口調だった。
……ま、いっか。『付き合う』って言葉に戸惑ったけど、どうせいつもと変わらないような日々が続くだけだ。
そう思うと、先ほどまで胸につかえていたものがなくなって、気楽になった。もう一度箸と茶碗を持って、ご飯を食べなおし始めた。
これから、みー君との関係は、ちょっとだけ変わりそうだと思いながら。
スパダリという単語の説明は、本文中にも書きましたが、マイナビウーマンの記事を引用させてもらいました。
https://woman.mynavi.jp/article/210629-40/2/