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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第十章 私は君に持っていてもらいたいんだ
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私は君に持っていてもらいたいんだ その8

 不思議な家だった。床が一段高くなっていて、草で編んだようなシートが敷いてあった。ラオスーは靴を脱いで上がったので、僕たちもそれに習った。

 床の上に低いテーブルが置かれている。サキは足を不思議な形に組んで床に座った。僕も見よう見まねで同じように座る。しばらくしてラオスーがカップを僕たちの前に置いた。中味は薬草のような味のする飲み物だった。

「それで。礼をいいに来ただけではあるまい」

 ラオスーは細いパイプの先にたばこの葉を詰めている。

「実は、お願いがあってきたの。彼は『先祖返り』よ」

 顔を上げずにラオスーはいった。

「そうは見えんが」

「M3ファージでTB化したばかりだから。名前はレン。レナード・マーシュよ」

 僕の名前を聞いて、ラオスーはピクリと白い眉を動かした。

「ハリー・マーシュの息子か」

「はい」

 僕は答えた。

「ラオスー、彼に体のコントロールの仕方を教えてあげて欲しい」

 火をつけたパイプを吸い込んでふーっと煙を吐き出すと、ラオスーは目を細めた。

「まったく、お前たちはろくな頼みを持って来ん」

「聞いて。ファントムたちがある計画の準備を進めているわ。もしそれが実行に移されたら、西部地区の人々はすべて殺されてしまうかもしれない。だから今、『アーム』の人たちがなんとかしようとしている」

「お前さん、いつから『アーム』になったんじゃ」

 サキは首を振った。

「なってないわよ。でも、もうそんなことをいってられなくなっているのよ」

「わしは『アーム』のやることにも、ファントムのやることにも興味はない。火星の人間がどうなろうとかまわん。自分も含めてな」

「ニキも『アーム』と行動を共にしているわ」

「そうか……」

 煙草の煙の向こう側からラオスーが僕を見つめた。

「ときに坊主。お前さんの夢はなんじゃ」

 突然の質問に僕は答えに詰まった。

「分かりません」

 僕にはそう答えるしかなかった。どうしてそんなことを訊くんだろう。

「その歳で自分の夢を持ってないとは。やれやれ、なんともったいない。そうは思わんか、サキ」

 サキは困った顔でラオスーを見た。

「それは無茶よ。レンはつい最近までこの世界の真実を知らなかったのよ」

「そんなことは分かっておる。それがハリー・マーシュの選んだ道じゃからな。だが、すでにこの子は徐々に別の道を歩み始めておる。詳しい事情は知らんが、察するにこの子はいずれ大きな岐路に立たされるのではないかの」

 何もいわず、サキは僕をじっと見つめている。やがて溜息をついてうなずいた。

「その通りだと思うわ」

 カン、と音を立てて、ラオスーはパイプの中の灰を木の箱に落とした。

「ファントムの計画発動までどれくらいじゃ」

「一か月よ」

「ニキのようにはいかんぞ。なんせ後天的な『先祖返り』なんて初めてじゃ。時間もない。あまり期待せんでくれ」

「ありがとう、ラオスー」

「それで、あやつは元気にやっておるのか」

「ええ。元気にやってるわ」

 ラオスーはかすかにうなずいた。

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