表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第十章 私は君に持っていてもらいたいんだ
90/127

私は君に持っていてもらいたいんだ その5

 翌日、目が覚めてから僕はいろんなものを破壊した。

 まず、テーブルに置いてあったグラスを割った。ベッドから起き上がろうとして、ヘッドボードを壊した。ドアを開けようとしてノブを壊した。とにかく、手で握るものをことごとく壊してしまった。

 金属製の食器はさすがに壊れなかったけど、ちょっと力を入れるとナイフとフォークが簡単に曲がってしまいそうだった。

 恐る恐る食事をしている僕の様子を、同じテーブルのTB、ヨミ、サキ、バーニィが見ている。

 バーニィがTBにたずねた。

「TB、後天的な『先祖返り』がその体に慣れるまでどれくらいかかると思う」

 TBはちょっと考えてから、指を一本立てた。

「一ヶ月か……」

 TBが首を振る。

「まさか、一年……」

 バーニィの言葉にTBがうなずいた。

「まあ、たまにお前も物を壊してるからな。いきなりTB化したレンに普通の生活は無理か」

 僕は自分の手をじっと見つめた。TBほどじゃないけど、一晩でかなり筋肉がついている気がする。さすがに身長が突然伸びることはなかったけど、体がどんどん大きくなりたがっているような感じがした。

 腕を組んで考え込んでいるバーニィの肩をTBがとんとん、とつついた。

 TBはあごの下に手をやって、何かのジェスチャーをしている。バーニィが首をかしげる。

「ニキ、もしかして、ラオスーのことをいってるの?」

 TBのしぐさを見ていたサキがいった。

 TBがこくこくとうなずく。

 バーニィがはっと顔を上げた。

「ラオスーって、ワイルド・グース・チェイスのことか」

 ふたたび、TBがこくこくとうなずいている。

「なるほどな……」

「チェイス・リーか。奴は苦手だ」

 顔をしかめるヨミに、サキがたしなめるようにいった。

「あんたが礼儀知らずだからでしょ」

「いったい何者なの」

 僕の問いにバーニィが答える。

「ドクがTBを預けた人物だ。TBはファントムに引き渡さなくてもよくなったが、ドクから離れることが条件だった。そのときドクがTBを預けたのが、ワイルド・グース・チェイス。チェイス・リーという人物だ」

 サキがそのあとを続けた。

「私たちは老師ラオスーと呼んでいるわ。もともとは東部地区に住む一族だったの。今はアナサインド・テリトリーに住んでる。ちなみにレン、MAと一緒に墜落した君を助けたのは彼よ」

「じゃあ、ファントムを殺したっていうのは……」

 サキがうなずく。

「確かにいい考えだわ。彼ならなんとかしてくれるかもしれない。それに、レンを助けてくれたお礼をいいにいかなきゃと思っていたの」

 火星の人間なのにファントムを殺せる人か。いったいどんな人なんだろう。それにしても――。

「なんとかしてくれるって、どういうこと?」

「彼は人間の体のことに精通しているの。だからTB化した体をうまくコントロールするすべを教えてくれるかもしれない」

「その人は医者なの」

「いいえ。彼はクンフーという体術のマスターよ」

 そうか。TBの格闘技はその人から教わったのか。TBが僕を見てうなずいた。TBを育てた人なら確かになんとかしてくれそうだ。

「よし、そうと決まれば、さっそく出発しよう。レン、しばらくチェイスのところに預かってもらえ」

 腰を上げかけるバーニィにヨミが声をかけた。

「アリソン、今カ――いや、マーシュをひとりにして大丈夫なのか。それにまだ作戦も決まっていないんだぞ」

「今の状態のレンがいても何もできないさ。チェイスのところなら大丈夫だ。なんせファントムに対抗できる唯一の人間だからな」

 まだ納得できないような顔をしているヨミに向けてバーニィが苦笑を浮かべた。

「まあ、少しでも離れたくないって気持ちは分かるが、がまんしてくれ、お嬢ちゃん。こいつのためだ」

「な! わ、私は別にそういう意味でいったのではだな――」

 あわてふためくヨミを無視して、バーニィは僕に片目をつぶった。

「そういうわけだから、レン。お嬢ちゃんのために、早く帰ってきてやれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ