これを取りに必ず戻ってらっしゃい その1
それにしても、大きい背中だなぁ。
前を行く馬上のTBを見ながら、僕はぼんやりとした頭でそんなことを思っていた。
思いがけないことが一度にたくさん起こって、僕の頭は正常に動いていなかった。考えなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに。
出発してからどれくらい経ったんだろう。太陽はかなり傾いているから、かれこれ三時間くらいだろうか。並足で進むチェスの規則正しい歩みが僕をまどろみに誘う。
黒髪の少女たちが去ってから、僕はいったんマッコイ爺さんのところに向うことにした。爺さんの容態は心配していなかったけれど、このまま何もいわずに父を追いかけて行くわけにもいかない。それに、必ず戻ってくるっていったんだ。
「まず知り合いのところに行きたいんだ。心配してると思うから。いいかな」
僕がそういうと、TBはうなずいて外に出た。
このとき、ようやく僕は彼女が銃を持っていないことに気が付いた。銃を持たない賞金稼ぎなんて。
さらに家の外に出て戸惑った。チェスしかいない。てっきりTBの馬もそこにいると思ったのに。
「TB、君の馬は?」
TBは首を横に振った。
「馬に乗ってない? じゃあどうやってここまで来たの?」
僕の問いかけに、TBは自分の足を指差した。
「まさか走ってきたんじゃ……」
なぜか嬉しそうにTBがこくりとうなずく。
馬車駅からここまでチェスの速歩で三十分はかかる。距離もそうだけど、彼女が馬車駅に着いてからここに来るまでの時間が短すぎる。
でも、さっきの人間離れした跳躍。あり得るかもしれない。
とはいっても、まさかTBだけ走らせるわけにはいかない。いちばん馬格のいいフリッカを馬装して、TBと引き合わせた。
TBがフリッカの額をなでると、フリッカはおとなしくされるがままにしている。気が合いそうでよかった。
「レン! 大丈夫なの?」
爺さんの家の前で馬を降りると、ジェシカがほうきを持って飛び出してきた。
「僕は大丈夫。でも父さんが連れていかれた。今から追いかける。マッコイ爺さんは?」
「奥で休んでるわ。ちゃんと固定してるから大丈夫。レン、その人は?」
TBは馬から降りて帽子を脱いだ。
「僕を助けてくれた、TB。怪我をしていて喋れない」
ジェシカはTBを見上げた。
「あなた、もしかして……」
TBは首をかしげる。
「とにかく中に入って。まだ散らかっているけど」