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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第十章 私は君に持っていてもらいたいんだ
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私は君に持っていてもらいたいんだ その4

「そうか。それで、カカオ。おまえ自身はこの先どうするつもりだ。やっぱり医者になるのか」

 ドクターとのやりとりを聞いたヨミが僕に尋ねた。

「分からないよ、そんなの。だって、ここがどうなるのか、それさえ分からないんだよ」

「そんなことは関係ない。要は、カカオがどうしたいかだ。自分から可能性を狭めてどうする。ドクター・マチュアもたぶん――」

 ヨミがふと黙り込んだ。

「どうしたの」

「もしかしたらドクターは――」

 そのとき、パン! と乾いた銃声がした。

 僕たちは同時に立ち上がって周囲を見渡した。通りの人たちも立ち止まって周りを見ている。怪しい人間はいない。ファントムの銃の音じゃない。

「中だ」

 ヨミは宿屋の中へ飛び込むと、真っ先にドクターの部屋に向った。

「やっぱり……」

 ドクターはテーブルに突っ伏していた。だらんと垂れた手にはまだ拳銃が握られている。レッドフィールドが持っていたような小ぶりの二十二口径だった。その銃で自らのこめかみを撃ち抜いていた。

 部屋にはすでにバーニィとサキが駆けつけていて、僕たちのあとから『アーム』のみんながやってきた。ドクターの様子を見ていたサキが首を横に振るとバーニィが壁に手をたたきつけた。


 日暮れ頃、僕が外に出ると、昼間僕たちが座っていたベンチにバーニィがひとり腰かけていた。僕を見てうなずいたので、隣に座った。

「俺のミスだ。もっとちゃんと気を配るべきだった。あんな大見得を切ったのにな。情けないぜ」

「バーニィ、悪いのはファントムだよ」

 バーニィは無言で首を振って、暗い道をじっと見つめた。いつもの苦笑が消えた横顔に向って僕は問いかけた。

「ずっと考えてたんだけど、本当のことをもっと大勢の人に知らせるべきなんじゃないのかな。ほんの一握りの『アーム』の人間だけじゃできることは限られてしまう。地球人テランに抵抗する声が大きくなれば彼らも考えを変えるかもしれないじゃないか」

「実はな、そういうことは過去に何度も試みられてきたんだよ。でもそのたびに失敗しているんだ。別にファントムの妨害があったからじゃない。誰も信じようとしないんだ。いや、信じたくない、かな。声を上げた人間は変人扱いされ、やがてうとまれ、最後には敵意さえ向けられる」

「そんな……」

「真実なんてどうでもいいのさ。みんなそこそこ幸せに生きていければいいんだ。わざわざそれを壊そうとは思わない。みんながみんなお嬢ちゃんみたいに腹をくくって生きているわけじゃないからな。しかも面倒なことに、俺には彼らのそういう生き方が間違っているといい切れないんだ。なあ、レン。人間っていうのは本当に厄介な生き物だよ」

 僕はなんだか無性に腹が立ってきた。何に対してなのか、自分でも分からなかった。ファントムに対してなのか、真実を知ろうとしない火星の人たちに対してなのか、それとも運命を受け入れるコーディネーターに対してなのか。なんだか体が熱くなってくる感じだ。いや――本当に体の中が燃えるように熱くなってきた。

「どうしよう、バーニィ」

 バーニィが驚いて僕に向き直った。

 急に視界が暗くなって、体が前に傾いていく。意識が遠くなって――。

 そして僕はとうとう『先祖返り』になった。

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