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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第十章 私は君に持っていてもらいたいんだ
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私は君に持っていてもらいたいんだ その2

「でも、ヨミのお母さんが誰にも触れなければいいんですよね」

 僕の質問に、ドクター・マチュアは首を振った。

「いや。厳密にいうと、ヨミの母親が誰かに触れる必要はないんだ。彼女が目を覚ました時点で能力が解放され、半径十マイル以内にいる人間全てが瞬時に感染することになる」

「目を覚ましたら?」

 今度はヨミが僕の問いに答えた。

「おそらく、コールドスリープされているんだろう」

 ドクターマチュアがうなずく。

「暴走しかけたナオミの能力を抑えるため、東部地区の『アーム』はファントムの手を借りて、彼女に冷凍睡眠を施した。そして、ファントムは冷凍カプセルごと、ナオミを接収してしまった」

「お前たちはそのことを知っていたのか」

 バーニィがサキとヨミを交互に見た。

「そういう能力が発現する可能性があることは分かっていたわ。あなたたち、吸血鬼ヴァンパイアという言葉を聞いたことがある?」

 サキの質問に、ヨミとドクター・マチュア以外は全員首を振る。サキが説明を始めた。

「もう千年以上昔、地球のある地域でこれと同じ能力を持つ一族がいた。彼らは血を吸う魔物、吸血鬼ヴァンパイアという伝説上の存在として伝わった。でも、彼らが持っていたのは今いったドレイン・アニムスの能力にほかならないわ」

 そのあとを、ドクター・マチュアが引き継ぐ。

「ヨミの母親、ナオミはその能力を復活させた。それも一種の『先祖返り』だ」

「ドクター、ナオミは今どこに」

 サキがたずねた。

「すでに西部地区の拠点に移されている。センターと呼ばれているファントムの施設だ。もちろん、まだ冷凍睡眠されたままだ。彼女が覚醒して能力を開放すれば、爆発的に感染は広がり、ほぼ一か月でこの地区のすべての人間の肉体は朽ちてしまうと推定されている」

 バーニィが椅子の背に体を預けた。

「それで、実行の時期はおそらく一か月後、ということだったが」

「ファントムの火星赴任の期間は5年だ。火星の重力下で長期間生活すると、彼らの体は弱い重力に慣れてしまって、地球の重力に耐えられなくなってしまう」

 ドクターは僕のほうを見て付け加えた。

「『先祖返り』はそうはならないよ。ニキを見れば分かるように、『先祖返り』には重力による体力の低下がほとんどみられない。だが、地球人テランはそうはいかない。だから、5年周期で交代することになっている。任期を終えたファントムはシャトルで宇宙ステーションまで行き、そこで後任のファントムと交代する。彼らが計画を実行に移すのは恐らくそのタイミング、西部地区のファントムがステーションに引き上げた直後だろう」

「今のファントムの任期はそろそろ終わる」

「その通りだ、バーニィ。交代は一か月後に予定されている」

「なるほど、そういうことか。時間がないな」

「それともうひとつ。西部地区だけに効果を限定するつもりなら、実行の前に港を封鎖するはずだ。船の移動による感染を防がなければならないからね。奴らが港を封鎖したら実行は近いと見ていいだろう」

「わかった。対策を練ろう。ドクター、あんたには何と礼をいったらいいか分からない。ありがとう」

「礼はいい。そのかわり、バーニィ。ひとつ頼みがある」

 そういって、ドクター・マチュアは拳銃を取り出すとテーブルの上に置いた。

「これで私を撃て」

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