君はまだ自分の価値が分かってない その4
少し小柄なほうのファントムがほぼ同時に銃を構える。間髪を入れず、ヨミが僕の横に並んで両手の中で黒い霧を発生させる。
もうひとりのファントムが、隣のファントムの銃口に手をかざして制した。銃を構えた小柄なファントムは、体つきからするとどうやら女性らしい。僕はファントムたちに告げた。
「罠はバレている。仲間が岩山の上から対ファントム用ライフルで狙いをつけているぞ」
半分はハッタリだった。フランチェスカがライフルを用意しているはずなんだけど。
女性のファントムが片手をヘルメットに手をやると、ジィーという音がした。
「本当のようです」
僕は内心ほっとした。
「困ったな」
男のファントムが口を開いた。声からすると、館でレッドフィールドと会話していた人みたいだ。
「これ、ほんとは私も乗り気じゃなかったんだよ」
「カウント!」
女性のファントムがとがめるように横を向いた。確かレッドフィールドもカウントと呼んでいたな。やっぱりあのときの人か。
「君たちがレッドフィールドを殺しちゃったもんだからね。何らかの制裁は必要だろうということになったんだけど。なんと、小さなお嬢さんがたったひとりで乗り込んできた。どうしたものかと思ってたところなんだ」
カウントと呼ばれたファントムもヘルメットに手を添えた。
「君たちに勝ち目はないよ。向こうにいるお仲間はMA二機で十分だろう。悪く思わないでくれたまえ」
「待て。僕はファージでTB化した唯一のサンプルだ。僕と引き換えに手を引いてくれ」
「よせ、カカオ」
ヨミが僕にささやく。
「はなから君たちふたりには手を出さなないつもりだよ。でもまあ、私たちにとっては悪い取引じゃない。そもそも君と火星人じゃ全然引き合わないんだよ。例え彼らが何十人いたとしても。君はまだ自分の価値が分かってない」
黒いヘルメットの下の表情は見えなかったけど、カウントの声は自信に満ちていた。
「攻撃はしないと約束してくれ」
カウントはうなずいた。
「約束しよう」
「カカオ……」
心配そうにささやくヨミに小声で答える。
「武装したMA四機じゃ勝ち目がない」
ヨミがカウントたちのほうへ一歩進み出た。
「ひとつだけ教えてくれ。さっき私が聞いたことは本当なのか」
カウントは首を振った。
「残念ながらそれに答えることはできない。ミズ・キサラギ」
ヘルメットに添えられたカウントの手が動いたそのとき、教会の周囲で一斉に爆発音が響いた。四方の窓ガラスが割れて、ガラスが中に飛び散る。僕たちはその場にうずくまった。
ヨミがすでに黒い霧を僕たちの周りに展開させている。
何が起こったのか分からないまま顔を上げると、カウントが女性のファントムを突き飛ばすのが見えた。その直後、バシッという音とともに彼女のいた後ろの壁に穴が開いた。フランチェスカだ。
「レン!」
オートモービルが教会の中に飛び込んできた。バーニィが運転席から叫ぶ。
「ふたりとも、乗れ!」
後部座席にはTBが仁王立ちになっている。その手に抱えられているのは、ファントムのMAが装備しているようなガトリング銃だ。束ねられた銃身がブゥーンという音を立てて火を噴く。
カウントと女性のファントムは大きく跳躍して弾を避けると、天窓から外へ脱出した。僕たちがオートモービルに飛び乗ると、猛スピードで教会をあとにする。
振り返ると、四機のMAの足元で爆薬が炸裂している。すでに三機のMAの足は破壊され、操縦席のファントムたちは逃げ出している。最後の一機も煙を上げて倒れた。
「バーニィ、あれは……」
「援軍だ。なんとかぎりぎり間に合ったな」
バーニィは振り返って満足そうな笑みを浮かべた。




