怪物はお前たちだけではないんだよ その7
僕は壊れた壁に走り寄って、奴らの去った方角を見定めた。そっちには何もない荒野が続いている。いつのまにか賞金稼ぎも僕の隣に立って、同じ方角をじっと見ている。
とにかく父を助けに行かなければ。でも、わけの分からないことが多すぎてひとりじゃとても無理だ。この賞金稼ぎは何者なんだろう。僕を助けてくれるだろうか。
彼女は手のひらを開いたり閉じたりしている。たぶん体の調子を確かめているんだろう。特に怪我をしている様子はないみたいだ。
よく見ると――というか見上げると――、意外と若い。
僕には女の人の年齢がいまひとつわからないけど、たぶん二十代なんじゃないだろうか。陽に焼けた肌、ぼさぼさの褪せた金色の髪、大きいけれど引き締まった体は、野生の動物を連想させた。
首に巻いた赤いスカーフを土煙よけに鼻の上まで引き上げているから表情までは分からないけど、鋭い眼をしている。
ん? 待てよ。赤いスカーフ?
「あなたはもしかしてうちの患者さん?」
賞金稼ぎは僕を見てうなずいた。
すっかり忘れていたけど、馬車駅で落ち合うことになっていた患者の目印が赤いスカーフだったんだ。
「やっぱりそうか。僕はレン。レナード・マーシュ。ハリー・マーシュの息子で、あなたを迎えに行くことになってた」
彼女はスカーフを引き下げて首元を見せた。喉に大きな傷痕がある。ひどい傷だ。
「これは……もしかして、しゃべれないの?」
彼女はうなずいた。それで父のところに来たんだろうか。
「そういえば、父さんからあなたの名前を聞いてない。あの女の子はTBって呼んでたけど」
腕組みをして少し迷ってから、彼女は口を動かした。「ティー、ビー」と発音しているように見える。そして、自分に親指を向けた。
「TBって呼べということだね」
彼女はうなずき、奴らが去っていった方角をさっと指差した。
「奴らを、追う?」
僕はTBにたずねた。
TBは、にやっと白い歯を見せて笑った。