君はまだ自分の価値が分かってない その3
教会の近くに着いたのは夜明け前だった。数百メートル離れた小高い岩場の上に僕たちは到着した。
「建物の裏にMAが一機いる。誰も乗ってないな」
バーニィが双眼鏡を覗き込んでいる。
「しっ。MAの音がするぜ。背後から近づいてくる」
キャットがささやく。
やがて僕たちの頭上をMAが一機ジャンプしていった。たぶんヨミのMAだ。
ヨミのMAは上空で風防を吹き飛ばし、後部座席が射出された。たぶん操縦しているヨミが後部座席を強制的に脱出させたんだろう。打ち出された座席に座っていたのはTBだった。座席についていたパラシュートが開く。でも、TBには必要ない。僕たちのはるか後方に座席から飛び降りて着地した。
一方、ヨミのMAは教会の屋根を破壊して、大きな土煙と破片を撒き散らしながら降り立った。相変わらず無茶苦茶な操縦だ。
TBが僕たちのところに駆けつけてきた。
「お嬢ちゃんに追い払われたな」
TBは悔しそうにうなずく。
ヨミはあくまでもひとりで行くつもりだ。
教会の四方から四機のMAが低くジャンプしながら近づいてきた。ヨミのMAと違って武装している。教会を取り囲むように停止した。
だめだ。もし結界が発生していたら、ヨミに勝ち目はない。
そう思った瞬間、体が熱くなった。体の内側から燃えるような熱が起こった。
僕はオートモービルに飛び乗ると、岩場からMAめがけて急発進させた。
「待て、レン!」
バーニィの叫び声を背後に聞きながら、岩場を駆け下りる。
こちらに気付いたMAが銃口を向けた。僕がハンドルを切ると、すぐ脇をMAのガトリング銃の弾丸がかすめていく。
再びハンドルを戻して、MAに直進する。MAの銃口が火を噴く寸前、頭の中でガチン、という音がした。
座席を蹴って跳躍する。
体中の筋肉がみしみしと音を立てている。
オートモービルがMAの足に激突するのを視界の隅に捕らえながら、僕はヨミのMAが壊した教会の屋根の上に飛び上がっていた。MAの構造上、その銃口は上に向かないことは分かっていた。火星の人間を相手に、上空からの攻撃は想定していないからだ。
教会の中が見えた。いた。ヨミだ。
僕は残った屋根の梁を蹴って、方向を修正すると、ヨミのすぐ前に降り立った。
「カカオ!」
ヨミの黒い瞳が驚きに見開かれた。そして一瞬、ほんの一瞬だけ、ヨミはとても幸せそうな表情を見せた。
その顔を見た瞬間気付いた。僕はヨミのことが好きなんだ。
でも、その表情はすぐに消えた。心配そうな顔で僕に手を伸ばそうとして、あわてて引っこめた。
「なにをやってるんだ。体は大丈夫なのか」
「そんなことより、結界は?」
「MAでつぶしてやった」
ヨミの視線を追うと、部屋の床と天井の隅に黒くて四角い機械が備え付けてある。ヨミのMAが部屋の一角を破壊したときに、装置も下敷きになっていた。
もしかして、ヨミが建物を壊すのは、結界を想定しているからなのか。そんな考えが頭によぎったけど、僕の注意はすぐに背後からかけられた声に向けられた。
「君はもしかして、ドクター・マーシュの息子かな」
部屋の反対側の壁に大きな十字型の木がかかっていて、そこに人の像が磔にされていた。なんだか不思議な感じがした。
その前に、ふたりのファントムが立っている。
僕は背中のベルトに挟んでいたファントムの銃を抜いて、彼らに向けた。銃はバーニィたちがレッドフィールドのところから回収していた。
「レナード・マーシュ。スローバックだ!」




