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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第八章 後悔ばかりの繰り返しだったからね
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後悔ばかりの繰り返しだったからね その1

 見渡す限りあたり一面青い水だった。

 その水の中に腰まで浸かって、僕は立っていた。そうか、青い色は空の色を反射しているからなんだ。

 もしかして、これがヨミがいってた昔の地球の海なんだろうか。ということは、僕は地球にいるのか。

 いつの間にか、すぐ側を大きな木の板が漂っていた。どこかで見覚えがあると思ったら、うちの家のドアじゃないか。TBが吹き飛ばしたやつだ。僕は水面に浮かんでいるドアによじのぼった。

 そこにはヨミがいた。なぜかとても悲しそうな顔をしている。僕が近づいていくと、ヨミは首を振りながらあとずさっていく。

「どうしたの?」

 僕が問いかけてもヨミは無言で首を振るばかりだ。とうとうドアの端まできてしまった。僕が手を伸ばすと、ヨミは仰向けに海に落ちた。

 上から海を覗き込むと、さっきとは海の深さが違っている。ものすごく深そうだ。その深い海の底へヨミはゆっくりと降りていく。

 僕も飛び込もうとするけれど、体が動かない。海の水は透き通っていて、ヨミの体がどんどん小さくなっていくのがはっきりと見える。

 僕は彼女の名前を叫んだ。


 眼を開くと見慣れない天井があった。

 柔らかな陽の光が何かに反射して、ゆらゆらと揺れている。

 僕はゆっくりと起き上がった。頭がふらふらした。

 小さいけれど居心地のよさそうな部屋だった。窓際に置かれたベッドに、僕は寝ていたらしい。開け放たれたドアの向こうはダイニングキッチンになっている。人の気配がした。

「目が覚めた? よかった」

 ひょい、と女の人が顔を覗かせた。僕は一瞬、不思議な感覚に陥った。自分がとても永いあいだ眠りに落ちていて、ヨミが大人になってしまったんじゃないか、と。でも、よく見ると、その女の人とヨミは肌の色と髪の毛の色が同じなだけで、顔は全然似ていなかった。

「あの、ここは……」

「ちょっと待って」

 女の人は部屋に入ってくると、ベッドの脇の椅子に足を組んで座った。両手に軍手をはめている。いきなり右手に持ったジャガイモを僕に突きつけた。

「あなた、エレナの息子でしょ」

「はい。あの――」

「よしっ、当たった!」

 ジャガイモを握りしめて喜んでいるその人をぽかんと見ていると、彼女はハッと顔を上げて照れたように笑った。

「あ。ごめんね。こんなところにひとりでいると楽しみがなくて、つい。ハリーとエレナは元気? 確かアビリーンにいるって聞いたけど」

「母は六年前に死にました。父は……」

 一気に記憶が噴出した。血まみれで横たわる父の姿が脳裏に浮かぶ。あれからみんなどうなったんだ。あのファントムは? でもその前に、この人に話してもいいんだろうか。

「あなたは? どこで両親と?」

「私はサキ・アサヒナ。あなたのご両親とは東部地区で知り合ったの。もう二十年以上前になるわ」

 確かにその頃父さんと母さんは東部地区にいた。そこでTBを引き取ったはずだ。ん? 二十年以上前? この人そんな歳には見えないけど、いったいいくつなんだ。

 サキは両手に握ったジャガイモに視線を落とした。

「お母さんのこと、知らなかった。ごめんなさい。わけがあって、ハリーたちとは接触できなかったの」

「あなたもコーディネーターなんですか」

 少し体を乗り出すようにして、サキは声を落とした。

「そのへんのことは、ご両親から聞いているの?」

「いいえ。両親から直接は。ある人たちから話を聞きました」

「そう……。私はコーディネーターでも、『アーム』でもない。今は、そうね、ただの農家のおばさん」

 そういって、彼女はジャガイモを顔の前に持ってきた。やっぱり、おばさんというほどの歳には見えない。

「だから、心配しなくてもいい。ファントムに突き出したりしない。あのMAを落としたのは君?」

 僕はうなずいた。

「僕はどうやってここへ?」

「ある人が、気を失っている君を運んできたの」

「あのファントムは」

「その人が殺したわ」

「殺した? ファントムを? いったいどうやって――もしかして、その人は『先祖返り』なんですか」

「いいえ、違うわ。その人はTBじゃない。私たちと同じよ」

 普通の人間でファントムを殺せる人がいるなんて。いや、待て。そんなことよりも、僕の体はあれからどうなったんだ。僕は手のひらをぎゅっと握りしめた。

 強制的に『先祖返り』の能力を発現させる。どうやら、それが父の行っていた研究だったみたいだ。そして、父は僕にその研究成果を僕に打ち込んだ。確かにあのあと僕にはTBやファントムと同じ身体能力が備わっていた。でも、今は?

 よく分からないけど、元の状態になっている気がする。とにかく、みんなのところに戻らなきゃ。

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