お前たちなら必ず来ると信じていた その10
部屋のどこかから、中性的な声が聞こえてきた。
――コード・レッド? それはまた穏やかではありませんね。
「ドクター・マーシュが死んだ。M3ファージを息子に投与してな。こうなった以上、危険分子の即刻排除と私の身柄の保護を要請する。トリガーはまだ発動していない」
――なんてことを……。この失態の責任は重いですよ。
「わかっている」
――今、一機向わせています。
ズン!
窓の外で何か大きなものが地面に落ちて、部屋の壁を震わせた。聞き慣れた音。MAが着地した音だ。
――では、のちほど。
窓の外でガチン、という金属音がした。
「やばい! おかしら!」
キャットが叫ぶ。
「伏せろ!」
ヨミが両手を広げて黒い霧を展開させると同時に、窓がいっせいに音を立てて割れた。ブゥーンという音とともに、とてつもない量の弾丸が部屋の中にばらまかれていく。黒い霧によって勢いを削がれた銃弾が、僕たちの足元に大量に降り積もっていった。
「ビル!」
バーニィが叫ぶ。すきをついて、レッドフィールドが部屋から逃げ出した。弾丸の雨は止まず、僕たちは身動きが取れない。
僕はそばに横たわってる父さんを見つめていた。
弾丸が降り注ぐ音が遠くのほうで聞こえる。なんだか体中が熱い。頭がぼうっとしてきた。意識が遠のいていく。目を開けていられない。誰かが肩を揺さぶっている。バーニィ? 何ていってるの? だめだ。ものすごく眠くて……。
トリガーを引け――。
不意に頭の中で父さんの最後の言葉が響いた。閉じたまぶたの裏に銃の引き金が浮かぶ。遠のいていく意識の中で、僕はその引き金を引いた。
カチン。




