お前たちなら必ず来ると信じていた その9
「お前たちなら必ず来ると信じていた」
父さんがバーニィのほうを見ながらいった。
「ちくしょう。なんてこった」
バーニィが視線を僕たちに向けて、苦しそうに歯をくいしばった。父さんが苦しそうに口を開く。
「ヨミ、ここに来る前に『マクスウェルの悪魔』は解除した。あれはもう使えるぞ」
ヨミが僕のそばにひざまずいた。
「ドクター、私は……」
「自分の信じる道を進みなさい。レンを頼む」
唇をかみしめて、ヨミはうなだれた。両膝に置いた握りこぶしが震えている。
「レン」
父さんが天井を見つめている。たぶんもう目が見えなくなっている。
「ここにいるよ」
「今まで黙っていてすまなかった。母さんの望みでもあったんだ。でも、もうそれも……」
僕は首を振った。
「レン……トリガーを引け」
それが父さんの最後の言葉だった。
これまで僕は父さんの助手として、人が死んでいくところに何度も立ち会った。なぜだろう、死んでいった患者さんたちのことが次々と脳裏に浮かぶ。たぶん父さんは悔しかっただろうな。僕には決してそんなそぶりは見せなかったけど。とても悔しかっただろう。
くそっ。
バーニィが僕の隣に膝をついて、父さんの目をそっと閉じた。
「レン、体は大丈夫か」
「え……どういうこと?」
「どこかが痛んだり、熱を持ったりしてないか」
僕は首をかしげた。バーニィは何をいってるんだ? でも、いわれてみれば……。
「なんとなく、体が熱いような気がする」
「お嬢ちゃん、ファージの効果はどれくらいで出るんだ」
ヨミはうなだれたまま首を振った。
「分からない」
「おい、嬢ちゃん。あとでゆっくり落ち込んでくれ。ファージ摂取後このまま放っておいて大丈夫なのか」
「数分から数時間だ」
突然、レッドフィールドが口を開いた。
バーニィが立ち上がる。
「なんでそんなに幅があるんだ!」
「人体に使用した例がないからだよ。副作用についても不明だ。本当に効果が出るのかどうかも分からん」
「バーニィ、もしかして、さっき父さんが僕に撃った銃のこと? 父さんは何かの薬剤を僕に打ち込んだの?」
「いいか、坊や。あれは――」
レッドフィールドの叫び声が部屋に響いた。
「カウント! コード・レッドだ。頼む」




