お前たちなら必ず来ると信じていた その5
「君がハリーの息子のレナード君だね」
突然名前を呼ばれて、僕はぎくりとした。
「まあ、そんなわけで、『アーム』の過激派どもから君の父上を救い出してあげた、ということになるわけだ。感謝してほしいところだね」
「ドクは無事なのか」
「当たり前じゃないか、バーニィ」
「どうするつもりだ」
「残念ながら、すでにファントムには報告済みなんだよ。彼らはハリーたちの研究内容に非常に強い関心を示してね。彼らと共同で研究を進めてもらうことになるだろうな」
ヨミが一歩前に出た。
「貴様、ドクをファントムに売るつもりか」
やれやれというふうにレッドフィールドは両手を上げた。
「人聞きの悪いことをいわないでもらいたいな。いいかね。私たちコーディネーターはこの星のことを常に最優先に考えているんだ。それはハリーも同じだよ。今でもな」
ふん、とバーニィが鼻を鳴らす。
「そっちこそ、今さら何きれいごとぬかしてやがる。この贅沢な暮らし、クローン技術、オートモービル、地球から持ち込まれた年代物のワイン。あんたこれまでそれをどうやって手に入れてきた。そして今回のことで、あんたはファントムから何を得たんだ」
その問いには答えず、レッドフィールドは太い指をヨミに向けた。
「君たちはハリーを連れ戻しに来たんだろ。それでこの先どうするつもりだ。彼の研究成果を使って地球と本気で事を構えるつもりなのか」
「あれを使うことで、少なくともこれまでよりは奴らと対等な立場に立てるはずだ」
ヨミはきっぱりとと答えた。
「それで? その先は? いいかね、お嬢ちゃん。この星には北部のメタンハイドレート以外、まともな資源なんてひとつもない、死んだ星なんだよ。それもとっくにファントムに握られている。地球人の庇護がなければ我々は生きてはいけないんだ。地球と対等の立場になるなんてことはあり得ない」
「そんなことはやってみなければ分からない。誰かが始めなければ何も変わらない。そしてその誰かは、既得権益にしがみつき、甘い汁を吸ってのうのうと生きている豚どもじゃない。私たち『アーム』がやらなければならないことなんだ」
レッドフィールドは大声で笑い出した。
「バーニィ、このお嬢さんはなかなか肝っ玉が据わっているじゃないか。昔の誰かを見ているみたいだったぞ」
黒い瞳を細めて、ヨミは、苦笑いを浮かべているバーニィをにらんだ。
「まあ、いずれにしろ、ハリーも私と同じ考えなんだ。何度もいうが、これがこの星にとって最もいい選択なんだよ」
「ドクと話がしたい」
バーニィの言葉に、深い溜息をついてレッドフィールドはうなずいた。
「では、本人にご登場願おうか」
再びテーブルの上のボタンが押された。すぐに扉が開き、また同じ姿の少女が姿を現す。金属製のカートを押している。そして、そのあとから父さんが入ってきた。




