お前たちなら必ず来ると信じていた その4
「さて。バーニィ、お前はいつから馬鹿な過激派どもとつるむようになったんだ」
レッドフィールドは首に挟んだナプキンで口を拭い、それをテーブルに置くと、椅子に体を沈めた。
「さあね。はっきりとは覚えていないが、たぶんあんたがドクの昔の研究をかぎつけてからじゃないかな」
バーニィに全く臆した様子はない。
「あんた、あれのことをいつ知った?」
「一年ほど前、父の遺品を整理していてな。偶然、あるファイルを発見したんだよ」
「ミルトン・ファイル」
「ほう」
テーブルに肩肘をついて、レッドフィールドは顎をなでた。大ぶりの指輪が光る。
「よく知っているじゃないか、バーニィ。なら、あのファイルが完全じゃないことも知っているな。肝心な部分が抜けている。そして、それを完全なものにできるのは、今やハリー・マーシュしかいない。もし、あの研究内容が過激派どもの手にでも渡れば大変なことになる。そしてやはり私が恐れていた通りになった」
バーニィは片頬を歪めた。
「猿芝居はもういいぜ、ビル。あんたの姑息なたくらみは分かっているんだ」
突然、レッドフィールドは愉快そうに笑い声を上げた。
「いやいや、あれほど見事に筋書き通り事が運ぶとは思わなかったよ。知っていると思うが、私は趣味で戯曲を書いていてね。たまにデッドウッドの野外劇場で芝居を打つんだ。君たちが派手に壊してくれたからまた建て直さなければいけなくなったが。いや。まあ、それはいい。とにかく私は今回の劇の出来にはとても満足しているんだ」
「あんたはわざとその研究内容をヨミたちのグループに流し、ドクを襲わせた。そして、今度はヨミたちの手からドクを奪い返した。たぶんファントムにはこう報告するんだろう。危険な研究内容を復活させようとしている過激派がいる。しかし、なんとか未然に防ぐことができた、と」
聞き分けのない子供を諭すように、レッドフィールドは首をゆっくりと振った。
「バーニィ。今さら何を息巻いているんだ。お前たち『アーム』が問題を起こし、コーディネーターがそれを沈静化させてファントムに恩を売る。これまで何度もそういうことをやってきたじゃないか。右手でマッチに火を点け、左手のポンプで火を消す。確か、ファーイーストにそんな表現があったと思うが。違ったかな、お嬢ちゃん」
ヨミはその言葉を無視した。
「そうそう。この部屋ではお嬢ちゃんのあのエントロピー加速の力は使えないからね」
みんながヨミのほうを振り向いた。
「ああ。どうやらそうらしい」
ヨミは胸の前で手のひらを合わせて霧を出そうとしているが、ぼんやりとした黒い霞が漂っているだけだった。




