怪物はお前たちだけではないんだよ その5
それにしてもなんでこの子はこんなに偉そうなんだ。
「おとなしくついて来れば父親の安全は保証する。信じられないかもしれないが、この私が保証するのだ。これ以上の保証はない」
ほんとうに偉そうだ。
「まだ理解できないだろうが、これは君自身にとっても悪い話ではない。たぶん君はここで父親の職を継ぐはずだったのだろう。それもまあ悪くはない。そして本当のことをなにも知らないまま君の一生は終わる。ありふれたつまらない一生だ。見なくてもわかる。ひとつ訊くが、君が本当になりたいものはなんだ」
僕は言葉につまった。
「牧童か、職人か、商人か。それともカウボーイになって牛でも追うか」
『眼帯』がカウボーイという言葉を鼻で笑った。
確かに僕はこれまで自分の将来というものを真剣に考えたことがなかった。でもだからといってまだ訪れてもいない未来を他人から否定される筋合いはない。
「僕は……僕の父も祖父も、その祖父の代から、ここでずっと医者をやってきた。確かに郡の中心街に比べたら何もない場所だけど、僕はここが気に入ってる。僕の母もここが好きだった。母はここで眠っているんだ」
少女は壁にかかっている母の写真をちらっと見た。
「なるほど。君のいい分はわかった。ところで、君はここがどこか本当に知っているのか」
ここはアビリーンのエルム・クリークだ。でもたぶん彼女のいう『ここ』はそういう意味じゃないんだろう。
「私と一緒に来い、少年。世界の本当の姿を見せてやる」
黒髪の少女は僕を見つめた。瞳まで黒い。その真っ暗な瞳に吸い寄せられるように足を踏み出そうとした、そのとき――。
背後から何かが飛んできて、僕の目の前にバタンと倒れた。
家のドアだった。
そして、おなかに響くような重い足音とともに誰かが僕の隣に立った。
大きい。
しかも女性だ。
僕は彼女の胸ぐらいまでしかない。
「貴様は――TB」
少女がいった。知り合いなのか。
TBと呼ばれた女は、胸のバッヂをはずして少女たちにかざした。
保安官のバッヂと同じ形だ。でも、錫色ではなく赤銅色、ということは郡保安官からの正式な依頼を受けた賞金稼ぎだ。
初めて見た。