あの日以来一日も忘れたことはない その10
町外れの広場に大きなテントが張られていた。
松明がたくさん焚かれている。
中から大勢の人の歓声や拍手が聞こえてくる。
僕たちが中に入るかどうかためらっていると、人影がテントの裏のほうから転げ出てきた。うしろを振り返ってよろめきながら走っていく。
大きな人影がそのあとから大股で近づいていく。TBだ。手にナイフを持っている。
前を走っていた人影が転んだ。弱々しく上半身だけ起き上がると手を掲げた。
「待ってくれ。お前を見捨てたわけじゃないんだ」
男の前に佇んでいるTBの表情は見えない。
「確かに彼らから連絡はもらっていた。でも私は断ろうと思っていたんだ。いや、勘違いしないでくれ、お前がうちの稼ぎ頭だったからじゃない。ヤーナのためにもお前を手放したくなかった」
TBが男の前にしゃがむと、男はぎくっと身を引いた。
「ほ、本当だ。だが、あの事故があって気が動転してしまった。だから彼らに全てを委ねてしまった」
僕たちはTBの背後で立ち止まった。
「TB!」
ちらっと僕たちを振り返ったけど、TBはまた男のほうを向いた。男が僕たちに視線を向ける。
「あんたたちは……」
「TBの――ニキの仲間です」
TBは持っていたナイフの柄のほうを男に差し出した。
「これは……まだ持っていたのか」
男はナイフを受け取った。TBは手のひらを広げて両手を掲げた。そしてゆっくりと首を横に振る。男はがっくりとうなだれた。
「そうか……。お前に謝らなければいけない。そう思っていた。ずっとだ。あれからずっとそう思って生きてきた。あの日以来一日も忘れたことはない。ニキ。すまなかった」
TBはもう一度首を振った。
顔を上げた男は僕たちに視線を移した。僕の顔を見て何かを思い出そうとしているようだった。
「あんたとはどこかで……いや、気のせいか。もしよかったら、ニキのことを教えてくれないか」
といわれても、僕もTBのことはあまりよく知らない。
「それは俺が話そう」
テントのほうから苦笑いを浮かべた人物が近づいてきた。
「バーニィ、どうしてここに」
「リーダーは常に仲間のことを把握しているんだよ。TBは子供の頃、このサーカスにいたんだ。あんたは団長のセルゲイ・ボーリンだね」
男がうなずく。
「彼はTBの育ての親だよ」




