あの日以来一日も忘れたことはない その9
「そうか」
僕が腰を上げようとすると、バーニィが制した。
「まあ落ち着け、坊や。今アレンが馬車駅に詰めてデッドウッドから戻ってくる荷馬車に聞き込みをしている。奴のルートとおよその場所が特定できるはずだ。それを待って、明日の朝出発する」
「わかった」
「問題はMAがふたり乗りだってことだ。操縦は坊やとお嬢ちゃん、残り三人だが――」
TBが自分の太ももをぱんぱんと叩いた。
「おい。まさか走って行くつもりか」
バーニィがあきれた顔でTBを見た。
たぶんTBになら、『先祖返り』にならできる。
「TBなら大丈夫だと思う」
僕の言葉にバーニィがうなずく。
「そうだったな。だが、強行軍に変わりはない。今日は三人ともゆっくり休め。俺はちょっとアレンの様子を見てくる」
バーニィが出て行くと、僕は深く溜息をついて椅子にもたれた。ジェイダが僕の肩に手を置いた。
「心配しなさんな、レン。『アーム』の人間はみんなドクの世話になってるんだ。あたしたちがちゃんとバックアップするさね」
「はい」
僕は不意に、バーニィのアジトでジェシーがいった言葉を思い出していた。――必ず仲間がいること忘れるな。
「ん? それは何だい?」
ジェイダが僕の手元に置かれているサーカスのチラシを覗き込んだ。
「ああ、これはサーカスの――」
僕がいい終わらないうちに、さっと手が伸びて紙を奪った。TBだった。サーカスの案内をじっと見つめている。
「どうしたの」
はっと我に返ったように僕を見ると、紙を持っていていいかというジェスチャーをした。
「うん。別にいいけど」
TBはポケットに紙をしまうと、さっと手を振って出て行ってしまった。
その夜。
陽が落ちると僕たちはジェイダに追い立てられて寝床についた。同じ部屋のキャットは早々といびきをかいてしまったけど、僕はなかなか寝付けなかった。体は疲れているはずなのに目が冴えている。
それでも無理やり寝ようとしていると、隣の部屋の窓が開いて、どさっと何かが地面に落ちる音がした。
ベッドを抜け出して窓を開け、通りを見下ろした。歩き去っていくTBの後姿が見えた。ひとりでどこへ行くつもりだろう。
「カカオ」
小声で僕を呼ぶ声がする。隣の部屋に目を向けると、ヨミも窓から顔を覗かせていた。下の通りを指さす。
僕たちはこっそりとアレンの店を抜け出すと、通りで落ち合った。
「行き先は想像がつく」
「サーカス?」
ヨミはうなずいた。




