あの日以来一日も忘れたことはない その3
クリスは明らかに男の動作よりも遅れて動いた。にもかかわらず、男が引き金を引く前に、クリスの放った銃弾は男の手から銃を吹き飛ばしていた。速すぎて撃鉄を起こす動作どころか、ホルスターから銃が抜かれたところすらはっきりと見えなかった。
男は右手から血を滴らせていた。もう銃は握れないだろう。
「銃と馬は置いていけ。一マイル半向こうに町がある」
男は左手でガンベルトをはずして地面に落とした。
「レッドフィールドはポートタウンを出た頃だ。デッドウッドで落ち合う予定だった」
バーニィとクリスが視線を交わす。
「ドクター・マーシュは無事か」
「無事だよ。大事なお客様らしいからな」
そういって、走り去ろうとして撃たれた男のほうを振り返った。バーニィが腕を組む。
「墓は作ってやる。ただし棺桶はないぞ」
「じゅうぶんだ。狭いところが嫌いな奴だった」
右手を押さえながら歩き出そうとして、男は立ち止まった。
「レッドフィールドは危険だ。目的のためなら手段を選ばない。決して気を許すな」
「わかってるさ」
遠ざかっていく男の後姿眺めながらバーニィがいった。
「クリス」
「すぐ出発する」
クリスが厩舎に向おうとする。
「待って」
ざっ、と二階からフランチェスカが飛び降りてきた。
「食料持って行って」
そういいながらキッチンに入っていく。
小屋の中に戻った僕たちを待っていたのはガラスの破片まみれの朝食だった。
TBがテーブルを片手で持ち上げて、食器ともども床にぶちまけてしまった。相変わらず乱暴だ。ナイフを取り出すと、平然とした顔でいつものように木片を削り始めた。
「俺の朝めし……」
がっくりと肩を落とすキャットの背中に、外から戻ってきたフランチェスカが声をかけた。
「また作ってあげるから、情けない声出さないで」
その言葉に、TBが手を挙げる。
「あんたはもう食べたでしょ」
TBがしゅんとなる。
「わかったわよ、もう」
フランチェスカはまたキッチンに引っこんだ。僕たちはTBをならって椅子の上の破片を振り落とす。
「さて」
バーニィが口を開いた。
「キャットとフランチェスカはここにあるもので使えそうなものと食料をまとめて旅装を頼む。それと、坊やにはいろいろと覚えてもらいたいことがあるんだが――」
「銃?」
「そんなものはいつだっていい。とりあえず、MAの操縦をマスターしてくれ。今日中だ」
「えっ、今日中?」
「お嬢ちゃん、よろしく頼んだぜ」
ヨミが、仕方ないというふうにうなずいた。




