本気でかからないとつぶされるわよ その7
山のふもとにぽっかりと開いたトンネルを入ると、気温が何度か下がった気がした。錆びたレールの上にはトロッコが置かれ、そこかしこにシャベルやツルハシがうち捨てられている。突き当たりに少し開けた空間があった。そこからまたいくつものトンネルが続いている。
床に三人の男女が倒れていた。
そこらじゅうについている銃弾の跡と、地面に散らばっている空薬莢が、激しい銃撃戦があったことを物語っている。
三人とも息はなかった。彼らの側にヨミがひざまずいて、ひとりひとりの額にそっと手を乗せていた。こうやって彼女が触れることができるのは死者だけなんだ。そう思うと、かける言葉が見つからなかった。
遺体を見て回った僕にはひとつ引っかかることがあった。彼らの傷痕は普通の銃でつけられたものだ。あのファントムの強力な銃弾にやられた者はひとりもいない。
ヨミもバーニィもそのことに気付いているはずなのに、ふたりは何もいわなかった。
結局、鉱山の中にいたヨミの仲間五名全員が命を落としていた。
「おやじさん、棺桶を五つ頼む」
ヨミが店の奥で椅子を組み立てている店主に声をかけた。僕とヨミは町の家具職人のところへ棺を作ってもらいに来ていた。
店主は腰を叩きながら僕たちのほうまでやって来ると、カウンターの上の紙をヨミに差し出した。
「遺体の身長と体重を」
ヨミはペン立てからペンを取って、真剣な表情で紙に数字を書き始めた。そんな彼女の横顔を僕はじっと見つめた。仲間を失っても表面的には大きな変化はないように見える。でも、本当は相当にショックなはずだ。
書き終わった紙をヨミは店主に差し出した。
「いつできる?」
「明日の夕方までにはなんとかしよう」
「わかった。取りに来る。前金を置いておく。残りは明日――」
ヨミがマントの懐に手を伸ばすと店主がいった。
「いや、御代はいらん」
ヨミの手が止まる。
「あんたたちにはいろいろと世話になった。それは感謝してる。だがな、申し訳ないんじゃが、ここから出て行ってくれんか」
店主はカウンターの上を見つめている。
「仲間を埋葬したらここを出て行く。安心しろ」
「そうか。町の人間にはワシから話しておく。自警団を差し向けようという話まで出とったんだ」
「ひとつ訊きたい。ファントムが現れたのはいつだ」
「昨日の朝だった。食料の調達に来ていたお前さんのところのふたりを撃って、鉱山のほうに向った」
「わかった」
「すまんな、ヨミ」
ヨミは何も答えず、外に出た。店主は深い溜息をついて、また店の奥へ戻っていった。
すたすたと歩くヨミの隣に追いつく。
「ここは引き払うつもりだった。だから気を遣うな」
「でも、別に町の人に被害が出たわけじゃない」
「奴らは怖いんだ。ファントムの存在は大昔から伝説のように伝わっている。人を襲う黒い悪魔。悪い子は連れ去られる。みんな子供の頃に親からそう聞かされるんだ」
「知らなかった」
「君の場合は特別だ。なんせドク・マーシュの息子だからな。最近はファントムの活動も目立ってなかったから、あまり人の口には上らなくなっているが」
「そのファントムのことなんだけど、実はちょっと気になることが……」
ヨミはうなずいた。
「その話はあとでアリソンたちと改めてしよう」




