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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第四章 本気でかからないとつぶされるわよ
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本気でかからないとつぶされるわよ その7

 山のふもとにぽっかりと開いたトンネルを入ると、気温が何度か下がった気がした。錆びたレールの上にはトロッコが置かれ、そこかしこにシャベルやツルハシがうち捨てられている。突き当たりに少し開けた空間があった。そこからまたいくつものトンネルが続いている。

 床に三人の男女が倒れていた。

 そこらじゅうについている銃弾の跡と、地面に散らばっている空薬莢が、激しい銃撃戦があったことを物語っている。

 三人とも息はなかった。彼らの側にヨミがひざまずいて、ひとりひとりの額にそっと手を乗せていた。こうやって彼女が触れることができるのは死者だけなんだ。そう思うと、かける言葉が見つからなかった。

 遺体を見て回った僕にはひとつ引っかかることがあった。彼らの傷痕は普通の銃でつけられたものだ。あのファントムの強力な銃弾にやられた者はひとりもいない。

 ヨミもバーニィもそのことに気付いているはずなのに、ふたりは何もいわなかった。

 結局、鉱山の中にいたヨミの仲間五名全員が命を落としていた。


「おやじさん、棺桶を五つ頼む」

 ヨミが店の奥で椅子を組み立てている店主に声をかけた。僕とヨミは町の家具職人のところへ棺を作ってもらいに来ていた。

 店主は腰を叩きながら僕たちのほうまでやって来ると、カウンターの上の紙をヨミに差し出した。

「遺体の身長と体重を」

 ヨミはペン立てからペンを取って、真剣な表情で紙に数字を書き始めた。そんな彼女の横顔を僕はじっと見つめた。仲間を失っても表面的には大きな変化はないように見える。でも、本当は相当にショックなはずだ。

 書き終わった紙をヨミは店主に差し出した。

「いつできる?」

「明日の夕方までにはなんとかしよう」

「わかった。取りに来る。前金を置いておく。残りは明日――」

 ヨミがマントの懐に手を伸ばすと店主がいった。

「いや、御代はいらん」

 ヨミの手が止まる。

「あんたたちにはいろいろと世話になった。それは感謝してる。だがな、申し訳ないんじゃが、ここから出て行ってくれんか」

 店主はカウンターの上を見つめている。

「仲間を埋葬したらここを出て行く。安心しろ」

「そうか。町の人間にはワシから話しておく。自警団ヴィジランティを差し向けようという話まで出とったんだ」

「ひとつ訊きたい。ファントムが現れたのはいつだ」

「昨日の朝だった。食料の調達に来ていたお前さんのところのふたりを撃って、鉱山のほうに向った」

「わかった」

「すまんな、ヨミ」

 ヨミは何も答えず、外に出た。店主は深い溜息をついて、また店の奥へ戻っていった。

 すたすたと歩くヨミの隣に追いつく。

「ここは引き払うつもりだった。だから気を遣うな」

「でも、別に町の人に被害が出たわけじゃない」

「奴らは怖いんだ。ファントムの存在は大昔から伝説のように伝わっている。人を襲う黒い悪魔。悪い子は連れ去られる。みんな子供の頃に親からそう聞かされるんだ」

「知らなかった」

「君の場合は特別だ。なんせドク・マーシュの息子だからな。最近はファントムの活動も目立ってなかったから、あまり人の口には上らなくなっているが」

「そのファントムのことなんだけど、実はちょっと気になることが……」

 ヨミはうなずいた。

「その話はあとでアリソンたちと改めてしよう」

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