本気でかからないとつぶされるわよ その3
「どうした?」
ヨミの言葉に僕の意識は引き戻された。焚き火を見ながらぼうっとしていたみたいだ。
「本当に父に会わせてくれるの?」
「私は最初からそういっているぞ。まあ、少々荒っぽい手を使ってしまったが」
「少々、ね」
「だ、だいたいあの馬鹿力女が律儀に職務を果たそうとしたからややこしくなったんだ」
「だって、TBは君たちを追いかけてきたんじゃないの?」
「いや。私たちがあそこで出会ったのは恐らく偶然だろう。TBはお前の父親に会いに来たんじゃないのか」
確かにそうだった。あの日は患者としてTBが来ることになっていたんだ。ということは、父に会いに来たTBがたまたまヨミたちと出くわしたということか。
「それから少年。私は別に賞金首ではないからな」
「え、そうなの?」
「当たり前だ。失礼な奴だな。賞金がかかってるのはキャットだ。それに、そもそも『アーム』と盗賊とはなんの関係もないんだぞ」
そうだった。『アーム』のメンバーがおたずね者だとは限らないんだった。
「じゃあ、郡からの依頼を受けて追っていたというのはキャットのことだったんだ」
「おそらくな。まったく、アリソンはお前にどういう説明をしたんだ」
バーニィは――。
バーニィは話を続けた。
「『アーム』というのは、地球復興に対する反対活動(Anti Earth`s Restoration Movement)のことだ。略して『A.E.R.M.』と呼んでいる」
「地球復興……地球って何のこと?」
聞いたことのない言葉だ。
「ファントムが住んでいる星の名前だ」
「星? 星ってあの夜空に光ってる星?」
「いや、正確にいうと違うんだが、まあ同じようなもんだ。惑星っていうらしい。宇宙っていう何もない空間にでっかい球が浮かんでて、その上で人が暮らしてる。分かるか?」
僕はぽかんと口を開けたまま首を振った。よく分からない。
「そりゃそうだよな。俺だって最初は信じられなかった。でもな、俺たちもその惑星っていうでっかい球の上にいるんだぜ」
「まさか」
「そう思うのも無理はない。でも本当なんだよ。俺たちは大昔から、地球人――地球に住む人間たちにずっと管理されてきたんだ」
「管理? でも僕たちはこれまでそんなこと何も……」
そういえば、ヨミもいってた。自分たちが支配されていることさえ知らないって。
「俺たちは知らないうちに、ある一定のレベルで文明の発展を抑制されているのさ。誰かがそこからはみ出ようとすると、奴らは強制的に排除する」
「マックスみたいに」
「そうだ。そのことを知っているのは、ほんの一握りの人間だけ。『アーム』もそうだな。『アーム』は地球人の支配に抵抗するために起こった運動だ」
僕は混乱する頭を必死で整理した。
「さっき、僕たちの先祖がファントムだっていったよね。ファントムは地球人のことなんでしょ。でも、僕たちはファントムとは体つきも体力もまるで違ってる。僕たちはいったい何なの?」
「大昔、地球人はこの星に移住した。その頃、この星に生物は存在しなかった。この星は地球と似通ってはいるが、全く同じというわけじゃない。この星の環境に合わせて、移住した地球人の体は徐々に変化していった。それが今の俺たちなのさ」
「今でも地球人はその地球っていう星に住んでるの?」
バーニィはうなずいた。
「今でも奴らは地球に住んでいる。ここにいるのは俺たちを管理するために一時的に派遣された一握りの地球人だ」
「ええと、つまりこういうことかな。テランがこの星に移り住んで、枝分かれして今の僕たちになった」
「その通り。さすがはドクの息子だ、飲み込みが早い」
「じゃあ、僕たちはその枝分かれの過程で地球人よりもだんだん弱くなっていったんだね」
「地球人に比べればな。でもそれがこの星では普通のことなんだ」
「この星――。僕たちがいるこの星に名前はあるの?」
「ある。地球人は火星と呼んでいる」




