馬鹿みたいだって思うでしょうけど その10
僕には手のほどこしようがなかった。
背骨の骨折、内臓の損傷、そして、木材が右胸に突き刺さって、出血が止まらない。たぶん肺まで達している。
地面に横たわったマックスはぜいぜいと濁った息を吐きながら、胸元のポケットから手帳を取り出すと、側にひざまずいているヨミに渡した。
「この機体の設計図……あとに続く者に渡して……」
「喋っちゃだめだ」
僕はなんとか傷口からの出血を抑えようとしていた。バーニィとキャットの乗った馬がやってきて、ふたりが降り立った。僕はバーニィを振り返った。
「バーニィ、この町の医者を」
「道具を持って、今こっちに向ってる」
バーニィとキャットが僕のそばに立っているTBの隣に並んだ。
マックスは僕を見て微笑んだ。
「ありがとう……でも、分かってる……ジ・エンドだ」
僕には何もいうことができなかった。
「バーニィ、一発で楽にしてくださいっていいたいところなんですけど……銃は苦手なんです」
そういうと、マックスは右手をヨミのほうに差し出した。
「頼む」
だめだ。僕はそういいかけた。僕はそういうべきなんだ。でも、何もいえなかった。
「これでもう思い残すことはないから」
ヨミはマックスの手を握りしめた。
キャットがうしろを向いて、ガッ、と地面を蹴った。
やがてマックスの手から力が抜けた。ヨミは握っていた彼の手を胸元に置き、もう一方の手もその上にそっと重ねた。
ヨミは涙を見せるでもなく、怒りをあらわにすることもなく、ただじっとマックスの胸に重ねられた手を見つめていた。
黒い瞳がいつもよりも暗さを増している。
彼女はつぶやいた。
「地球人、許さない」




