馬鹿みたいだって思うでしょうけど その8
大きな翼がゆっくりと動き出して、大通りへ進んでいく。
町の大通りは緩やかな下りの斜面になっている。その先には、上向きの傾斜を取って板が並べられ、板の道は途中で途切れていた。あそこから飛び立つんだ。
プロペラの回転速度が上がって、一枚一枚の羽根はもう見えない。機体の速度もどんどん上がっていく。
いつのまにか観客たちは静かになっていた。みんな固唾を呑んで見守っている。
ぐらっと機体が揺れた。一瞬地面から浮き上がる。大きな石か何かにぶつかったみたいだ。どよめきが起こる。でも、なんとか持ち直して、さらに速度を上げながら、道の突端に向って突き進んでいく。もうあと少しだ。
ヨミが胸の前で手を合わせた。
カカカカ、と音を立てて板張りの道を走る。
ふっ、と機体が視界から消えた。その直後、再び機体は僕たちの視界にふわりと現れた。
飛んでる。
機体は少しふらふらしながらも、ちゃんと飛んでいる。徐々に高度も上がっている。
「やった……」
僕は思わず溜息をついた。ヨミも肩の力を抜いた。
大きな歓声が沸き起こった。あちこちで帽子が飛び、指笛が鳴る。銃を空に向けて撃つ者もいる。
僕たちは顔を見合わせた。初めてヨミの笑った顔を見た。でも、彼女はすぐに照れくさそうに視線を機体のほうに向けた、そのとき――。
天からそれが降ってきた。
それは光の柱だった。
上空からマックスの機体に向って真っすぐに光の柱が降りてきて、翼をかすめた。
機体がぐらつく。
「なんだありゃ」
「雷か?」
「音がしなかったぞ」
人々が不安そうにざわめく。
光の柱が落ちた地面には大きな穴が開いて、蒸気が立ち昇っている。
「対地攻撃用衛星兵器! そこまでするか!」
叫びながらヨミは今にも駆け出そうとしている。
「第二射までまだ時間がある。私があそこまで行ければ……」
機体まではかなりの距離がある。でも、ヨミを馬に乗せるわけにはいかない。彼女に触れると馬は走れなくなってしまう。どうすれば――。
慌てて周りを見まわす僕の目に、飲み物を売っていた男が使った小さな荷車が飛び込んできた。
これだ。
近くにチェスを置いていてよかった。
僕は鋭く指笛を鳴らしてチェスを呼んだ。




